「天然ガス」に国の命運を賭けたプーチンの戦略眼 ロシアが世界の「エネルギー盟主」となった理由

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ロシアのウクライナ侵攻を受けて、エネルギー分野で注目しなければならないのが、ロシアと中国の連携強化です。ロシアの中国への原油輸出量推移を見ると、2012年、2013年以降から急増しています。ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア制裁に積極的ではない中国は、ロシアからの原油輸入量がいっそう増えていくことでしょう。

中露を直結する2つのパイプライン

天然ガス輸出については、2019年12月に完成した「シベリアの力」というパイプラインによって、東シベリアから中国に天然ガスを輸出しています。さらに、西シベリア、東シベリアからの天然ガスを、モンゴル経由で中国に輸出する「シベリアの力2」も建設予定です。

2022年2月4日、北京五輪開会式出席のために北京を訪れたプーチン大統領は、習近平国家主席と会談しました。そこでは、年間100億㎥の天然ガスをロシアの極東から中国に追加供給し、年間480億㎥に拡大する意向を示しています。まるで2月24日からのウクライナ侵攻前にわざわざ締結したかのようなタイミングでした。

ヨーロッパ諸国がロシアからの石油を禁輸し、天然ガスの脱ロシアを急ぐなか、新たな売り先を求めなければならないロシアと、グラスゴー合意を受けて、石炭消費の低減に向かいつつ、経済成長を支えるエネルギーを安定的かつ安価に確保する必要のある中国にとって、双方にメリットのある契約です。今後はロシアと中国を直結するパイプラインによって、両国の連携がさらに深まることが予想されます。

ロシアがいかにして世界最大の資源国になったのか、また、いかに世界に対して影響力を行使するようになったのかについて見てきました。日本もサハリンでの天然ガス開発ではロシアと協業しており、そこから日本に液化天然ガス(LNG)が輸入されています。また、ロシアと中国との接近は、今後の日本の国防や安全保障にも少なからず影響があるでしょう。その意味でも、ロシアのエネルギー事情について、より理解を深める必要があるのです。

平田 竹男 早稲田大学教授/早稲田大学資源戦略研究所所長

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ひらた たけお / Takeo Hirata

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授。早稲田大学資源戦略研究所所長。1960年大阪生まれ。横浜国立大学経営学部卒業、ハーバード大学J.F.ケネディスクール行政学修士、東京大学工学博士(環境海洋工学専攻)。1982年通商産業省(現経済産業省)入省。在ブラジル日本大使館一等書記官、資源エネルギー庁石油天然ガス課長等を歴任。2002年に日本サッカー協会に転職し、専務理事就任。2007年より早稲田大学に資源エネルギー関連の講義を開設、15年以上にわたって全学部を対象とした講義を行っている。2013年から2021年まで安倍晋三政権及び菅義偉政権において内閣官房参与(資源戦略担当)。

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