「天然ガス」に国の命運を賭けたプーチンの戦略眼 ロシアが世界の「エネルギー盟主」となった理由

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ガスプロムは、ロシア最大の企業のひとつであり、世界最大のガス生産量を誇ります。1989年に旧ソ連ガス工業省の改組を起源とし、1993年にロシア連邦の内閣決定によって株式会社化したガスプロムは、ロシア政府が50%超の株式を所有し、ロシア産ガスの輸出パイプラインを独占的に管理する世界最大のガス企業として存在しています。

ガスプロムの経営改革を推進しようとしていたプーチン大統領は、2001年5月に自分の側近でエネルギー省次官であったアレクセイ・ミレル氏を新社長に就任させ、ガスプロムに対する影響力を強めました。そして、ガスプロムはいくつかの企業を取り込みながら拡大し、2006年にロシアから天然ガスを独占的に輸出する利権を獲得しました。

こうしてガスプロムは、巨大な天然ガス産業の約7割を生産し、国内の幹線パイプラインを保有するに至っています。生産から流通、そして外国への輸出までを一貫して支配する国営独占企業体となったのです。

最高の技術を持つ天然ガス会社

ガスプロムはロシア国内にとどまることなく、ヨーロッパ、アジアなどの旧ソ連以外への輸出を増やし、国際的な企業に成長してきました。また、設備の更新や操業技術のレベルが飛躍的に向上したことによって、産出量が増えるだけでなく、技術革新によってすでに産出している地帯でも新たな埋蔵を確認できるようになる、という好循環のサイクルに入りました。さらに、開発技術の進展と価格の高騰によって、たとえば、北極圏のような、これまでは採算が合わなかった難しい場所でも産出が可能になっています。

天然ガスの可採年数を見ても、通常は、掘削を続けると埋蔵量が年数とともに低減していくものですが、ロシアの天然ガス埋蔵量はプーチン政権発足後の2000年代に増加しています。可採年数は世界平均を大きく上回る約60年であり、今後もまだまだ掘り続けることが可能です。

また、天然ガスの輸送手段については、既存の欧州向けの天然ガスパイプラインを拡充させるとともに、ウクライナの迂回ルートを多様化・充実させました。さらに、中国にもパイプラインをつなげています。つまり、欧州とアジアへの市場にアクセスし、より広い成長市場へのアクセスを確保したことになります。

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