「天然ガス」に国の命運を賭けたプーチンの戦略眼 ロシアが世界の「エネルギー盟主」となった理由

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ウクライナは、ロシアと欧州にとって、基幹パイプラインが通過する重要な国でした。ロシアからウクライナ、スロバキア、チェコなどを経由して、ドイツに天然ガスが大量に輸送されていたのです。ロシアからドイツに輸出されていた天然ガスは、ドイツ国内で消費されるだけでなく、ドイツから欧州各国に輸出されているため、ウクライナの重要性は非常に高いものでした。

このウクライナ経由のパイプラインは、ソ連時代の1964年に建設されました。「ドルジバ(友情)」という名前がつけられ、コメコンなど共産圏の国々へのエネルギー供給を担っていました。

特筆すべきことは、1985年当時、厳格な管理をしていたベルリンの壁を一旦壊してまで、西ベルリンまでパイプラインをつなげたことです。それによって、西ベルリン(旧西ドイツ)の9割のガス供給を行うようになりました。このように、東西冷戦時代からソ連とドイツはエネルギー外交によって、深い連携を行っていたのです。

ウクライナの反ロシア攻勢と新パイプライン

1991年にソ連が崩壊して、ロシアとウクライナは別の国になりました。そこから、パイプラインをめぐる難しいやり取りが始まります。ロシアの国営ガス会社ガスプロムは、パイプラインの管理権をウクライナに要求したのですが、ウクライナはこれを断りました。

これに怒ったロシアは、ウクライナを迂回するベラルーシ、ポーランド経由や黒海経由のパイプラインを建設するようになります。そして、2004年にウクライナで反ロシア政権が誕生すると、ロシアは兄弟価格を廃止し、従来の5倍という大幅な値上げを実施したり、2006年や2009年には、ウクライナ向けのガス供給を突然停止することで、ウクライナの政権に揺さぶりをかけるようになりました。

さらにロシアは、ウクライナを迂回する大容量のパイプラインを建設するため、2011年にドイツとロシアを直結するパイプラインである「ノルドストリーム」を開通させます。ロシア北西部のヴィボルグからバルト海の海底を通り、ドイツ北東部のルブミンにつながり、ウクライナの迂回を充実させました。

ドイツにとっては、政治問題により、ウクライナ経由のパイプラインが途絶されるリスクがなくなり、またロシアにとっては、ウクライナの影響を排し、ガスプロムが管理できるパイプラインを手に入れたという画期的な出来事でした。

2021年には「ノルドストリーム2」というさらに容量を増したパイプラインが完成したことで、両国の共通の利益はますます強固なものとなりました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、両国の関係を根本的に変えることになりました。ドイツをはじめ欧州諸国は、エネルギーの「脱ロシア」を急ぐようになります。

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