「ChatGPT」利用で個人情報保護法に触れる危うさ 生成AIを利用する時に何を気をつけたらいいか

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また、生成AIサービス提供者は、不正確な情報が出力されている場合には、仮に、個人情報保護法上の権利行使が法的に認められないとしても、自主的に本人からの出力停止の請求に応じるようにすることも考えられます。

さらに、生成AIの利用者が、出力結果を一方的に信じて自分で拡散してしまうことが起こり得ますが、この場合には、生成AIが出力したものをそのまま信じたと言っても、通常免責される訳ではなく、自分自身で拡散に関する法的責任を負うことになります。したがって、生成AIの利用者は、生成AIが出力したものを信じてそのまま拡散するのではなく、自分の責任でこれは正しいのか、言ってもいいことなのかを判断することが大切です。

営業秘密・機密情報との関係

事業者は、不正競争防止法で保護される営業秘密や機密保持契約(NDA)等で保護される機密情報を持っています。事業者は、営業秘密については不正競争防止法を根拠に、機密情報については、NDA違反を理由に、これらの情報を不正に使っている者に対して、情報の利用の差し止めや損害賠償等を請求することができます。

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営業秘密や機密情報を生成系AIに入力した場合、生成系AIサービス提供事業者への提供が、営業秘密や機密情報の保護の喪失を招いて上記のような請求権を失わないように注意する必要があります。

自社の営業秘密や機密情報については、生成AIサービス提供者との規約等で機密保持に関する定めがあるのかや、生成AIサービス提供者によるアクセスの実態等をチェックすることが必要であり、疑義がある場合には、営業秘密や機密情報を入力しないようにする必要があります。

また、仮に、法的には保護の手当てはできているとしても、現実的には、自社の機密情報・営業秘密のうちとくに重要であって、これらについての保護が失われれば事業上重大な影響が生じるものについてまで入力していいかは慎重に検討するべきと言えます。

問題をより複雑にするのは、第三者から開示を受けている機密情報を入力する場合です。第三者との間のNDAにおいて、委託先への開示は、委託先に同等のNDAを課せば可能と書いてあるケースもありますが、明記がない場合のほうが多いと思います。

この場合には、第三者から開示を受けている機密情報を入力することが第三者とのNDA違反にならないのかの問題が生じ、個別のNDAのチェックが必要になります。生成AIの普及を見据えて、今後は、第三者と締結するNDAで、生成AIへの情報の入力ができる条件を明示的に定めておくことで疑義をなくすことも考えられます。

田中 浩之 弁護士・ニューヨーク州弁護士(森・濱田松本法律事務所)

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Hiroyuki Tanaka

2004年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2006年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、2007年弁護士登録、2013年ニューヨーク大学ロースクール修了、2013年Clayton Utz法律事務所で執務(〜2014年8月)、2014年ニューヨーク州弁護士登録。2023年4月~慶應義塾大学大学院 法学研究科 特任教授(非常勤)兼慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートサイバーフィジカル・サステナビリティ・センター構成員。個人情報、IT、知的財産を3本柱とする。著作は「ChatGPTの法律(共著)」「60分でわかる!改正個人情報保護法 超入門」(共著)など。

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