インドネシア「日本の中古電車輸入禁止」の衝撃 世論は導入望むが「政治的駆け引き」で国産化へ

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そもそも、中古車両導入にNOを突き付けたのはジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領である。何かにつけてナショナリズムに訴えがちなジョコウィ大統領は、中古車両のみならず、あらゆる外国産品に対して規制を強化している。有名なところでは鉄鋼および鉄鋼製品の輸入を大幅に制限しており、品質の悪い国内産では代替が利かないため、インドネシアで高いシェアを誇る日系の各自動車メーカーからも悲鳴が上がっている。

つまり、2014年にジョコウィ大統領が就任した時点で、中古車両の輸入ができなくなるのは既定路線だった。しかし、2013年の時点でドアも閉まらず屋根まで乗客があふれていたジャカルタ首都圏の通勤路線(KCI Commuter Line、以下KCI)の早急な近代化のために定められた2019年までの車両輸入特例は前政権から引き継がれ、暫定的に認められていた。

2013年のマンガライ駅
2013年のマンガライ駅の様子。駅の高架・立体化も未着工で、乗客が屋根にまであふれていた(筆者撮影)

そんな中、いまさらながらKCIへの中古車両輸入の是非を問う議論が再燃したのは、車両の不足が深刻化していたからである。

国産車導入は遅れ、既存車両は老朽化

本来であれば、中古車両の輸入特例が終了した後は、INKA製の国産車両が順次投入されているはずだった。だが、コロナ禍などの影響も受けて国産車両の導入は早くても2024年に遅れることになった。一方、2022年半ば以降は社会のコロナ禍からの平常化が急速に進み、同年末時点でKCIの利用者数はコロナ前の8割程度に戻った。加えて、この間にブカシ線ジャティネガラ―ブカシ間の複々線化(長距離列車と通勤電車の分離)が完成、また沿線宅地化に伴うスルポン線末端部の利用者増加による大幅な増発が必要となっていた。

ジャカルタ首都圏通勤電車の利用者数推移

さらに、保有車両のうち、2010年代初頭に導入されていたチョッパ制御車両のトラブルが続発するようになっており、交換部品も枯渇していることから廃車せざるをえない状況に陥っていた。2020年以降、車両数がまったく増えないどころか減っている中で、必要車両数が飛躍的に増加していたわけだ。

現在はラッシュ時の減便という最悪の事態を避けるため、いったん12両編成に伸ばした車両を8両に減車して編成数を確保する対応が続いており、もっとも輸送量の大きいボゴール線では、5分ごとの運行が維持されている反面、ほとんどが8両編成となってしまい、混雑がコロナ禍前よりも悪化している。体感的には2012年時点と同程度くらいに後退しており、ピーク時は180%近い乗車率で、各駅で積み残しが発生している。もはや、2024年の国産車両導入を待つどころではなく、輸送力確保のためには2023年に中古車両を暫定輸入することは回避できない状況だった。

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