インドネシア「日本の中古電車輸入禁止」の衝撃 世論は導入望むが「政治的駆け引き」で国産化へ

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そこで、KCIは2022年半ばから中古車両輸入許可申請の準備と根回しを始めていた。2025年までに最大29本の調達の意向を示し、2022年末にようやくKCIを管轄する国営企業省が導入支持の立場を表明した。これに呼応して、どっちつかずだった運輸省も黙認という形で、事実上の支持に回った。

ジャカルタ、元メトロ6000系と京葉線205系のすれ違い
ジャカルタ首都圏の主力となっている元東京メトロと元JR東日本の車両。そのうち、チョッパ制御車両の機器の老朽化が深刻になっている(筆者撮影)

最低限の数の中古車両を導入し、もともと8両編成だったチョッパ制御車両の更新(VVVF制御化)という案も持ち上がったが、現状の設備上、これ以上の増発が難しい中での輸送改善は12両編成への統一以外に術はなく、更新工事は中古車導入以上のコストとなること、そしてリードタイムも長いことから、チョッパ制御車の置き換えも含めて、中古車両12両編成29本の導入がKCIの本命だった。

ジャカルタの通勤電車導入プラン図

しかし、そんな国営企業省と運輸省に真っ向から反対したのが工業省である。工業製品の国産化を推奨するジョコウィ大統領令に逆らうものであるとして、中古車両輸入論者を国賊とでも言わんばかりに推進派を牽制した。議論は平行線をたどり、ついに業を煮やしたルフット海事投資調整大臣が2023年3月初めに考えを示した。ジョコウィ大統領のガードマンとも言われる同大臣の言動を関係者は固唾を飲んで見守っていたが、なんとこの時、同大臣は金融監督庁による監査が必要と付け加えたうえで、輸入支持に回った。

国会での議論に世間の高い関心

これにざわついたのが国会(衆議院)である。貿易、商工業、国営企業に関する予算審議、また監督権等を有する衆議院第6委員会は、ただちに参考人質疑を開き、INKAとKCI、それにKCIの親会社である国鉄KAIの各社長を出頭させた。この様子はYouTubeにてライブ配信され、再生数は1万2000を超えた。第6委員会のライブ配信は通常なら伸びても1000再生程度で、いかに中古車両輸入の是非に世間が注目していたかがわかる。

参考人質疑では、2023年~2024年にかけて最低12編成の中古車両の緊急輸入は避けられない状況であること、またその後の国産車両導入を約束していることをデータを用いて説明するKAI社長、車両製造が2024年には間に合わないことや、新車のほかに既存車両を更新して延命する案などを説明するINKA社長に対し、委員会メンバーはフィリピンやバングラディッシュなど、諸外国への輸出実績もあるのにどうして国内向け車両の製造ができないのかと強い口調で罵り、社会のため、国民のためであるという感情論を展開した。

補足しておくが、INKAの輸出実績はほとんどが客車や貨車で、一部が気動車という程度であり、電車の輸出実績はない。しかし、委員会メンバーに客車と電車の違いなどわかるはずもない。

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