栗山英樹「決死の覚悟」で大谷やダル招集した経緯 WBCまでに栗山氏がノートに書き記した言葉
吉田は22年のオフに、オリックス・バファローズからボストン・レッドソックスへの移籍が決まった選手です。新しい環境に適応するためには、シーズン前のキャンプやオープン戦は大切な助走になります。
正直に告白すれば、彼のメジャーリーグ入りが決まった瞬間に、自分のリストからは名前を消しました。本人から「出たい」と連絡をもらったときには、喜びよりも驚きに包まれました。
私は率直な思いを伝えました。
「これまでメジャーリーグへ移籍した選手を見ると、1年目は簡単ではない。自分が正尚の父親だったら、『レッドソックスでしっかりプレーするためにも、WBCには出ないほうがいい』と言う。それでも、いいの?」
吉田は「監督、そう言ってくれるのは嬉しいですけれど」と切り出します。携帯電話を持ちながら、お辞儀をしていたかもしれません。続けた言葉には、太い芯が通っていました。
「僕はメジャーリーグでプレーすることもそうですが、WBCで世界のトップに立つことが夢なんです」
感動しました。まぶたの奥が、じわりと潤みました。
誰にでも訪れる人生の大一番
彼らメジャーリーガーが出場を決意した本当の理由は、実は私にもわかりません。ひとつだけ言えることがあるのなら、日本野球のために自分のすべてを捧げて世界一へ挑む、という思いに貫かれていたということです。
私たちの日常生活で、「死を覚悟するぐらいの気持ち」になる場面は、なかなか訪れないかもしれません。職場や学校で過ごす時間に照らすと、ちょっと大げさでしょうか。
けれど、人生の大一番と呼べるような局面は、誰にでも訪れるはずです。会社にとって大切なプレゼンとか、全国大会出場を懸けた試合とか、息子さんや娘さんの受験とか。そこで存分に力を発揮するために、日頃から準備をしておく。「いい準備をするため」の心構えとして、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を心に留めてもらえたら、と思うのです。
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