『逃げ上手の若君』作者が語る才能弱者の戦略 漫画家松井優征が「逃げ」をテーマにした理由
延々と思い悩むことが多かった
――この度は取材を受けていただき、ありがとうございます。週刊連載中というご多忙のなか、なぜ私たちの取材を受けていただけたのでしょうか?
自分自身が学校生活から社会生活まで生きづらいと思う場面が多々あり、どこかで同じ思いをしている若い人たちのヒントになればと思い、受けさせていただきました。考え方ひとつ、生きる場所、人付き合いの選び方など一つ変えるだけで格段に気が楽に楽しくなることもあります。
――『不登校新聞』という名称のためか、取材をお願いする際に身構えられてしまうこともあります。『不登校新聞』の取材依頼があった際、どう感じられましたか?
一目見てどういう媒体かわかるので、とてもいいと思います。売名目的や、暴利をむさぼる団体に思う人はいないでしょう(笑)。大仰な言葉、強そうな言葉、綺麗で格好いい言葉で飾り立てる相手より、ずっと信頼できると思います。
また、名前やコンセプトを一目見て、どういう読み方、どういう接し方をしたらいいかわかりやすい、というのは、漫画をつくるうえでも大事なことだと思います。
――松井さんの子ども・学生時代のことから聞かせてください。どのような子どもで、どのような学生時代をすごされてきたのでしょうか。
声が小さく、アドリブでパッと言葉が出てこないタイプなので、やはり子どものころはいじめられていました。みなと笑いのツボがちがったり、みなが楽しいと思うことを楽しめなかったり、教科書に書いてある通りのことを答えられなかったり。
もちろん友だちとすごす時間で楽しいものもいっぱいありましたが、メインは1人で遊ぶのが一番好きな子でした。歳をとるにつれ、いくつか人との摩擦を減らすやり方を憶えましたが、根本的には1人が好きなのは今も変わりません。
――私自身、不登校を機に、自分の居場所を失う経験をしました。松井さんは子ども時代に、うまくいかなかったことや、自分の弱さやダメさを自覚せざるを得ないような出来事はありましたか?
もともと非常にネガティブな人間なので、ふつうの人がすぐに忘れてしまうようなことで延々思い悩んだりはよくありました。人間関係においてはより顕著で、「答え方をまちがえた」「恥ずかしいことを言ってしまった」などは、いまだに思い出したりします。