『逃げ上手の若君』作者が語る才能弱者の戦略 漫画家松井優征が「逃げ」をテーマにした理由
――『ひらめき教室「弱者」のための仕事論』では「25歳ごろまでに鼻をへし折られる経験が必要だ。壁に当たって自分のレベルに気づけるし、痛い目にあってこそ次が見える」ともおっしゃっています。戦うことを避けることができない局面とは、どのようなときでしょうか?
人生のどこかでは「お金を稼ぐためには何をするべきか」を考え、そのための努力をしなければならないときが来ます。不可能な事情がないかぎりは、「一生ずっと働かない」という選択は正しいとは言えません。
逆に言えば、その瞬間さえ見極め、その瞬間さえ戦うことができればいいと思います。それは戦い続けるということとはちがいます。一生死ぬほど戦い続けなければその職場にいられないというのであれば、すくなくとも僕にはその職場は向いていないので、選ばないように見極めます。
戦わなければいけないとき
――戦わなければいけないとき、どのように戦えばよいのでしょうか?
戦う意志さえ手放さなければ、それは戦っていることになります。「またやってやる」と思いながら逃走し、潜伏することは、何ら悪いことではありません。
戦い方としては、とにかく退路と回復場所を確保しておくこと。仕事でたとえるなら、趣味の時間をしっかり取ること、有休を堂々と目いっぱい使うこと、医者に診断書を取ってあらかじめ自分のウィークポイントを上司に伝えておくことなど。
僕自身の経験から言えば、とにかく空き時間は人と会わないこと。ストレスの大半は人と接することから来るので、それを最低限に減らす。できれば周囲の人にもそれを言って理解してもらう。
退路と回復を確保しておけばおくほど、HPを保て、結果として戦える回数も増え、すこしずつ強靭になっていくはずです。職業上ほとんど誰とも会わなくてよく、キャリアを積んで人に媚びる必要もなくなった今の僕は、ほぼHPが減りません。
――最後に、弱いことに悩み、すぐに逃げ出してしまいたくなる気持ちを抱えたまま、今この瞬間を苦しみながら生きている子どもたちにメッセージをお願いします。
「逃げる」ということについて考えるとき、僕はいつもワクワクします。戦いを避けたい、ダメージを避けたい、楽して勝ちたい、裏をかいて勝ちたい。そんな逃げの発想を突き詰めると、いつのまにか相手を倒す攻めの発想に転じていたりします。
逃げて一人になっているあいだにすべきこと、それは悲嘆でも絶望でもなく、分析です。自分を分析し相手を分析することは、逃げているときにこそできる、人生でもっとも貴重な時間です。
自分にできること、相手のつけいる隙をよく見極め、来るべき「ここぞ」の戦いへの準備をしてください。心の一番奥底での闘志だけは絶対に捨てないでください。そうすれば、それ以外のすべてを逃げに費やしたとしても、楽しく人生を戦えると思います。
――ありがとうございました。(聞き手・古川寛太、茂手木涼岳)
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1979年、埼玉県生まれ。2005年、週刊少年ジャンプにて『魔人探偵脳噛ネウロ』(全23巻)で連載開始。2012年より同誌にて連載を開始した『暗殺教室』(全21巻)はテレビアニメ化、実写映画化されるなど大きな人気を博す。2021年より同誌にて『逃げ上手の若君』を連載中。漫画のほかに、デザイナー・佐藤オオキ氏との対談本『ひらめき教室「弱者」のための仕事論』(集英社)がある。
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