実は誕生から2世紀、「モノレール」知られざる歴史 初期は馬や蒸気機関車で運行、日本初はいつ?

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モノレールの営業線で現存する最古の路線は、1901年3月に営業開始したドイツのヴッパータール空中鉄道(Wuppertaler Schwebebahn)であり、ドイツ人技師のカール・オイゲン・ランゲンが開発した鋼鉄レール・鋼鉄車輪の懸垂型モノレールの技術(ランゲン式)を採用している。

ヴッパータールという、国際的にはそれほど名の知られていない都市にモノレールが建設された主な理由は、地形上の制約にあった。同市はルール工業地帯に属し、19世紀末には道路交通がかなり混雑するようになっていたため、これと分離した高速交通機関の建設が望まれた。しかし、ヴッパータールの市街地は、ライン川の一支流であるヴッパー川沿いの狭い谷間に広がっており、新たな鉄道用地を確保するのが困難だった。そこで活用することになったのが、ヴッパー川上空の空間である。ヴッパータール空中鉄道は、その路線の大部分がヴッパー川の上空に建設されている。

Wuppertaler Schwebebahn 1925
西側の終点・フォーヴィンケル駅付近でカイザー通り上を行くヴッパータール空中鉄道の車両=1925年撮影(写真提供:ヴッパータール空中鉄道)

そのほか、ユニークなものとして、1907年頃にはイギリス人のブレナン氏の発案により、相反する方向に高速回転する2個のジャイロスコープ(回転儀)を用いて1本のレール上に車両を自立させる(ごくわかりやすく言えば、回転するコマが直立する原理の応用による)ブレナン式モノレールシステムも登場した。しかし、いざ実用化という話になると安全面等に難があり、試験線がつくられるにとどまった。

日本のモノレール第1号は?

では、日本のモノレール第1号は、いつ誕生したのだろうか。我が国でも明治時代から、モノレールは「単軌鉄道」「懸垂鉄道」といった名称で、科学誌や少年向け雑誌等で紹介されている。このうち、「単軌鉄道」として紹介されたのは前述したラルティグ式やブレナン式モノレールである。

一方、「懸垂鉄道」の名で紹介されたのが、ランゲン式のヴッパータール空中鉄道だった。ラルティグ式やブレナン式が、都市交通として実用化するには技術的に未成熟だったのに対し、ランゲン式は、すでに都市交通としての実績のあるものだったから、我が国でも、これを参考にしたモノレール路線免許の申請が盛んに行われた。1913年以降、わかっているだけでも十指にあまる「懸垂鉄道」「飛行鉄道」の計画があった。

この中で、戦前において唯一、地方鉄道法による免許の交付にまで至ったのが、江ノ島電気鉄道(現・江ノ島電鉄)による片瀬―江ノ島間の懸垂電気鉄道計画である。1927年3月28日付で免許申請が行われ、翌年7月3日付で敷設免許が交付されている。

しかし、この計画は地元漁業組合の反対や、江の島を国の名勝・史蹟に指定する動き等がある中で、建設に至らないまま、1935年9月12日付で鉄道起業廃止(敷設を断念)された。

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