積水ハウス、客の「感性」刺激で住宅を売る新機軸 住宅販売の最前線で巻き起こる意外な新潮流

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積水ハウスはデザインのデータベース化と同時に、顧客が直感的に操作して、好みのインテリアデザインを探掘りしていく「インテリアコミュニケーションツール」(スマートフォンやタブレット向けのデジタルアプリ)を開発。このツールこそが、今回の感性に訴える提案システムの肝である。

「インテリアコミュニケーションツールを活用してお客様と販売の担当者が対話を図り、また全国にあるアトリエで実際に素材に触れてもらいながら、家の仕様を決めていくことができる」と、積水ハウスの矢野直子業務役員(デザイン設計部長)は説明する。

例えば、3人家族(父、母、長男)がインテリアを選定するケース。3人それぞれが、スマホ上に次々に現われる部屋の画像(計36枚)に「好み」「好みではない」を回答していく。その中から、3人それぞれがさらにベスト5画像を、その理由と合わせて絞り込む。すると、5画像に共通する「暖かみのある」や「明るい」といった客の好みが言葉として浮かび上がってくる。

新システムでは「シンプルな」「温かみのある」など顧客の好みを「見える化」しながら、住宅を設計していく(写真:積水ハウス)

家族3人の嗜好が似ていれば、自然に「好み」とマークした画像が重複し、浮かび上がる言葉も似たようなものになる。

問題は家族の嗜好がバラバラで、好みの領域が重ならないケース。だが、たとえそうでも、「母は落ち着いた色合いの家具が好きで、それを重視したインテリア選びをしているんだ」「長男は明るい色合いの開放的な部屋を望んでいるんだ」といった、いままで意識していなかった胸の内にある思いを、それぞれが知ることができる。

成長戦略上でも重要な意味

そうやって、それぞれの認識を共有化して、すり合わせながらデザインや素材を決定していく。単に「静」や「優」などの6フィールドの仕様に枠ではめていくのではなく、「静に近い優」や「静と優が混じりながらの奏」など、微妙な領域まで細かく設定していくことができる。最終的にはアトリエのパソコン上で、完成に近いデザインをCG(コンピューターグラフィックス)で確認することができる。

調査会社である東京カンテイの市場調査部・井出武上席主任研究員は、「積水ハウスは『エモーショナルな部分』で住宅を売っていく戦略だろう。顧客の頭の中にある趣味・趣向を見せて、いわば『ストーリー化』することでサービスの差別化を図る狙いと見ていい」と語る。

新しい提案システムは、積水ハウスの成長戦略上でも重要な意味を持つ。

3000点以上あった素材を今回2200点類に絞ることでコストダウンを実現。加えて、このサービス自体にサービス料などは発生しないが、「(新システムをテコに)セカンドレンジ(販売単価3000万~5000万円未満の戸建て)やサードレンジ(同5000万円以上)の(高単価商品の)販売を拡大することで売上高や利益への貢献を目指す」(仲井社長)としている。

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