「生産拠点が海外に移って日本の輸出が減ると、国際収支が悪化する」と懸念する人が多い。しかし、これは時代遅れの認識である。すでに2005年ごろから、経常収支黒字の半分以上は所得収支の黒字で実現している。経済危機後は、その傾向がさらに強まった。所得収支黒字は、08年には貿易収支黒字の3・9倍、09年には3・1倍になっている。
だから、「外国からものを買えなくなる」と心配するなら、輸出を増やそうとするのでなく、対外資産の運用を効率化して利回りを高め、所得収支の黒字を増やすように努力すべきだ。日本は、汗水たらして労働することで生きてゆくのではなく、頭を使って賢い資産運用を行うことで生きてゆける段階に達しているのである。悪化する客観条件下で国内生産に固執すれば、日本はじり貧状態に陥る。海外の生産拠点で効率のよい生産を行い、そこで利益を上げて日本に送金することこそ、日本が目指すべき方向である。
海外移転によって生じる唯一の問題は、日本国内で雇用が失われることだ。今後数年間は復興のために雇用があるだろうが、それはいずれ終了する。したがって、国内に雇用を創出するために、日本国内にサービス産業を成長させる必要性が高まる。これまでもその必要性があったが、それが急務になった。
産業構造のそのような転換は、単に日本の生産性を上げるだけでなく、GDP当たりの電力使用量も引き下げてゆくだろう。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年4月23日号)
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