世界最先端の銀行が「金融商品を売らない」理由 DXとビジネスモデル転換を実現したDBSの奇跡

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2014年、グプタは「デジタルウェーブ」という戦略プログラムを発動して、急速なデジタル変革に取り組んだ。それは、組織内にデジタル部門を設置するという、いわゆる「出島戦略」をとって段階的にデジタル化を進めるというものではなく、組織全体とそのビジネスをデジタル時代に合ったものへと一気に変革しようとするものだった。このDBSの大胆な試みは成功して、2016年には『ユーロマネー』誌から世界初のデジタルバンク賞を受賞するに至った。

DBSのトランスフォーメーションの特徴は、①テクノロジー(会社の芯までデジタル化する)、②ビジネスモデル(自らをカスタマージャーニーに組み入れる)、③組織・文化変革(従業員全員をスタートアップに変革する)という3つの領域において変革を同時に推進した点にある。すなわち、テクノロジーを刷新することに加えて、テクノロジーを活用してデジタル時代に適合するプラットフォーム型ビジネスを継続的に生み出すこと、そしてそれらを実現する組織活動のあり方を見直すことの3者を不可分のものととらえて、階層、部門、年齢を問わずに組織全体として推進に取り組んだことだ。

①については、テクノロジー活用の目標を同業者でなくデジタル先進企業として「GANDALF(「ロード・オブ・ザ・リング」に登場する魔法使いの名)」というキーワードを考え出した。GはGoogleのように、オープンソースのソフトウェアを使う。AはAmazonのようにクラウド上で動く。NはNetflixのように、データと自動化でビジネスを拡大し、個人向け推奨を提供する。2つめのAはAppleのようにシステムを設計する。LはLinkedInのように継続的学習を促進する。FはFacebookのようにコミュニティに注力する。そして真ん中のDはデジタルとデータの銀行をめざすDBSだ。

しかし、組織を芯までデジタル化するならば、同時に、テクノロジーを活用して最大限の効果を生み出すビジネスモデルを創出することが必要になる。

以下では②の、ビジネスモデルの変革について紹介する。

バンキングを見えなくする ~Embedded banking

DBSでは、「デジタルウェーブ」に先立つ経営計画「アジアウェーブ」の中の重要な施策として「プロセス改善イベント(Process Improvement Event: PIE)という一種のテクノロジーを活用したBPRを推進した。当初の目的はコスト削減だったが、取り組みを進めるうちに、その本質がコストよりも時間の削減であることに気づいた。さらに削減の対象は、銀行内の時間から顧客の時間へと発展した。

この過程でDBSは、顧客にとってバンキングとは、別の目的を実現するためのお金に関する「手段」であることを認識した。手段はそれ自体が楽しいものではなく、手間や時間やコストがかかればかかるほど、その不快さ、つまり「フリクション」が増していく。逆に、物理的なプロセスをなくしていけばフリクションは減少してバンキングも面倒なものではなくなり、究極的には顧客は取引のために銀行に足を運ぶ必要がなくなる。

お金に関する取引のために銀行に足を運ぶのではなく、顧客が目的に向かって行う行動の中にバンキングが組み込まれるようになる。DBSはこのいわゆる組み込み型バンキング(Embedded banking)に取り組んだ。2018年のアニュアルレポートでは、「Making Banking Invisible(バンキングを目に見えなくする)」と述べて、次のように説明している。「私たちは、新しいカスタマージャーニーを考えて、バンキングがお客様の生活のなかに組み込まれるようにすることに取り組んでいます。バンキングがシンプルで、シームレスで、手間のかからないものになれば、実質的には目に見えなくなります!」

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