世界最先端の銀行が「金融商品を売らない」理由 DXとビジネスモデル転換を実現したDBSの奇跡
2007年に発売されたiPhoneは、わずか2年半で普及してマス利用に至り、顧客との接点は店舗から手のひらへと急速に移行した。一般的な金融機関の中期経営計画1回分の間に、消費者の情報収集やコミュニケーションのチャネルが一変したことになる。
さらに、今年3月には、アメリカ・シリコンバレー銀行が、損失の発表からわずか2日間で破綻に至った。超高速の預金流出を導いたのは、SNSとネットバンキングであった。
テクノロジーが、社会、経済、企業の変化を加速させている。そして、金融機関もその例外ではない。あるアジアの銀行が数年でテクノロジー企業へと変貌を遂げ、「世界最高のデジタル銀行」と称されている。シンガポールに拠点を置くDBS銀行だ。
ジャック・マーとの対談で危機感を募らせる
DBSは、元は「Development Bank of Singapore」の略称である。名前から推察できるように、政府系の、古くて、顧客満足度が低い金融機関であった。
そんなDBSの変革を推し進めたのがインド系CEOピユシュ・グプタである。彼は2009年にDBSグループのCEOに就任し、銀行の変革を進めていくことになるのだが、ある時を境に、変革のアクセルを一段高いレベルで踏み込みはじめる。急速なスマートフォン普及の波に乗って中国で爆発的に成長していたアリババ・グループを率いるジャック・マー(当時)と会談したグプタは、スマホベースのデジタル企業がアジアに進出してバンキングを席巻してしまい、銀行という業態が絶滅危惧種へと追いやられてしまうことに危機感を募らせたのだ。
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