世界最先端の銀行が「金融商品を売らない」理由 DXとビジネスモデル転換を実現したDBSの奇跡

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POSBスマートバディが形成したエコシステムは、学童の昼食代管理という限定された領域のものだったが、その導入は副次的な効果を生み出した。親の大きな朝の悩みが解消されたことに加えて、子供がどんな食べ物を購入しているかがPOSBスマートバディのデータで可視化されたのだ。

これを受けて、親たちは食育により力を入れるようになった。またこのことは、子供の食習慣改善を課題としてとらえていたシンガポール政府が、スマートバディのデータに興味を示すことへとつながった。

さらに、POSBスマートバディの成功を見た政府はDBSに声をかけて、高齢者向けの同様のプログラムの開発を持ちかけた。これが、POSBスマートシニアという高齢者向けのデジタルプラットフォームと、POSBスマートスリーブというデジタルデバイスの開発へとつながった。高齢者の健康、位置情報管理、そして決済を中核に据えた新しいエコシステムの創出である。これらのエコシステムはDBSが自ら創出したものであり、全ての決済はDBSを通じて行われる。

口座や金融商品を売ることが仕事ではない

POSBスマートバディ以降、DBSのリテール部門における取り組みの焦点は、商品やサービスの開発と販売から、プラットフォームの開発を通じたエコシステムの形成へと移行した。

他にもDBSでは、不動産購入や自動車購入、あるいは旅行といった消費者の大きな支出機会をとらえて、デジタルマーケットプレイス化してエコシステムを構築し、そこで消費者が行う事前検討から実際の購入・利用までのカスタマージャーニー全体にわたる活動を1つのプラットフォーム上で行えるようにした。また企業向けには、食品や飲料のサプライチェーンをデジタル化して、業界全体の取引慣行を変革しようとしている。

DBSがしていることは、口座や金融商品を売ることではない。消費者の生活や企業活動の中の様々なテーマや局面で利用できる便利で高価値なエコシステムを提案し、それを利用してもらうと、背後にバンキングが組み込まれているのだ。

かくしてDBSのビジネスモデルは、商品・サービスの販売から、顧客の問題解決のためのプラットフォーム構築とエコシステム形成へと転換した。単にテクノロジー先進的なだけでなく、こうしたビジネスモデルの変革を同時になしえているからこそ、DBSは「世界最高のデジタル銀行」と称されているのだ。

上野 博 NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニット エグゼクティブスペシャリスト

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うえの ひろし / Hiroshi Ueno

住友銀行、日本総合研究所、フューチャーシステムコンサルティング、マーケティング・エクセレンス、日本IBMを経て現職。金融サービス業界を中心に、経営・事業戦略/新規事業開発/業務改革/マーケティング/テクノロジー活用等に関するコンサルティング/発信/提言活動を活発に実施。ブレット・キングの前著『Bank 3.0』(邦題『脱・店舗化するリテール金融戦略』東洋経済新報社)を翻訳。

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