それでは「ま、金利くらいはいいか」といえば、それもやや違和感がある。「他国の凍結資産の利子を転用していい」という前例ができてしまうと、EUが他国から同じことをされたときにどう対抗すればいいのか。
例えば、グローバルサウスのどこかの国が、過去の欧州による植民地支配に対する賠償を求め、国内にある欧州資産を差し押さえた場合、はたして対抗できるのだろうか。韓国における「旧・徴用工問題」がかわいらしく思えるような事態に発展するおそれもある。
というか、これを読んだ中国政府が「そうか、その手があったか!」とひざをたたいて、早速、グローバルサウスの国々に対する扇動活動を始めかねない。
資本主義社会の根幹をなす原則は、財産権の不可侵である。俺のカネは俺のもの、アンタのカネはアンタのもの。だからこそ、商業活動が成り立つのである。
しかるに、「お前は道徳的にケシカランから、お前のカネは召し上げてやる。お前に文句を言う資格はない!」と言ってしまうと、この原則が崩れてしまう。
「フローズン・アセット」は西側のカードとして残す
いやもう、確かにロシアはケシカランのである。ウクライナ侵攻は国連憲章違反であり、その被害たるや誠に甚大であり、しかもロシア軍による残虐行為も露見している。
「落とし前をつけさせろ!」と雄々しく言いたくなる気持ちはわかる。そしてロシアには、この1年だけで1000億ドルを超える石油ガスの輸出代金が流れ込んでいる。さらにまじめな話、ロシアという国は財政保守主義の伝統があるので、西側諸国に差し押さえられた3000億ドルはとっくの昔に「減損処理」している公算が高い。
ウクライナの悲惨な状況を見るにつけ、西側諸国としてはロシアの「フローズン・アセット」に手をつけたくなるのは人情といえる。しかるにそのことは、マネーの世界における「国連憲章」のようなものに違反する行為となるのではないか。西側諸国としては金融制裁の乱用を、戒めるべきだと思うのである。
できることなら「フローズン・アセット」は、いずれ来るかもしれないロシアとの和平交渉の際に、西側が使えるカードとして残しておくのが賢明なのではないか。「ロシアに復興資金を払わせろ!」というのは確かに正義の議論だが、マネーと正義はかならずしも相性がよろしくない。そのことはマーケット関係者であれば、誰もが体験的によく知るところではないかと思うのである。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
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