この議論をコンパクトにまとめているのが、3月20日にローレンス・サマーズ教授(ハーバード大学)がワシントンポスト紙オピニオン欄に寄稿した”The moral and legal case for sending Russia’s frozen $300 billion to Ukraine”(ロシアの凍結された3000億ドルを、ウクライナに送るべき道義的、法的理由)である 。
アセット移転はできても、「返り血」を浴びる危険性?
サマーズ氏曰(いわ)く「ロシアの外貨準備を移転することは、道徳的に正しく、戦略的に賢明であり、政治的には好都合なのである」。過去には1990年に、イラクのクウェート侵攻後に、イラク国家資金500億ドル以上が被害国に支払われた例がある。
今回のロシアの場合はさすがに規模が大きいし、しかもオリガルヒ(新興財閥)のヨットなどの差し押さえ資産を流用することは、私有財産権の問題があって法的に難しい。しかるに国家の外貨準備であれば、合衆国憲法上の問題もクリアできるはずである。
ただし、とサマーズ氏は元財務長官だけあって、最後に「ドルに害が及ぶ可能性」について言及している。こんな前例ができてしまったら、将来の対米投資が減るおそれがある。「グローバルサウス」の国々から見れば、「やはりアメリカは油断ならない」と警戒されるのではないか。同様のことは、現職のジャネット・イエレン財務長官も指摘している。
さらに欧州に視点を移すと、こちらはウクライナと地続きであることもあって、「フローズン・アセット」に関する議論はさらに活発である。英国が積極的で、ドイツが消極的というのは「さもありなん」だが、6月29日にブリュッセルで行われたEU首脳会議においても、本件が討議されたもようである。
とくにフォン・デア・ライエン欧州委員長は、以前からロシアの凍結資産を没収はしないまでも、そこから発生する金利を流用する可能性を示唆している。確かに今の欧米の高金利であれば、1年間でもかなりの額になるはずだ。
そうでなくても、欧州経済はインフレと低成長で苦しい立場である。また、財政に少しでも余力があるのなら、もっと再生可能エネルギーなど「脱炭素」に回したいという思惑もある。
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