「ファイナルファンタジー」が直面する大問題 世界的RPGはかつての輝きを取り戻せるか

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インドのコルカタにある社会科学研究センターでストーリーテリング媒体としてのビデオゲーム研究を率いるカルチュラル・スタディーズ(文化研究)の准教授、スヴィク・ムカルジーは、「英雄の旅」の構造はゲームデザイナーの自由を奪うことがあると指摘する。

カメラはほぼつねに主人公に固定されるため、プレイヤーが出会う別のキャラクターはヒーローを助けるためだけに存在しているような感覚に陥りやすくなる。

「ヒットの方程式」の変更は吉と出るか

ただ、「英雄の旅」のアプローチを採用しつつも、説得力のあるストーリーテリングを行う方法を見つけ出したゲームもあるという。その例としてムカルジーが挙げるのは、『レッド・デッド・リデンプション2』だ。この作品では、ギャングメンバーのアーサー・モーガンと、グループを率いるダッチ・ファン・デル・リンデの関係が壊れていく様子が描かれている。

とはいえ、スクウェア・エニックスが同様の成功を収めるのは難しいかもしれない。というのは、同社が手がけたものの中で最高のヒット作に数えられる『FF6』(1994年)や『FF7』(1997年、その後2020年にリブート版が発売された)などは、複数のキャラクターの視点が絡み合いつつストーリーが展開する構造になっていたからだ。

『FF16』の最初の数時間をプレイすると、複数の王国間の戦争という複雑なストーリーを物語る努力が伝わってくる。クライヴは単身で旅を続ける中、何人かの味方に出会うことはあっても、ほとんどは自身の犬とのみ行動を共にする。そうした旅のあり方が物語を展開する有効な仕掛けになっているかどうかが、本作では試されることになる。

吉田は、『FF16』のストーリーはさまざまな世代のゲーマーに響くものになっていると話す。クライヴの少年期から壮年期までを追いかけるストーリーは、社会に足を踏み入れたばかりの若いプレイヤーにも、現実の世の中を実際に見てきた年齢の高いプレイヤーにも感情移入できるものになっているという。

だが、それよりも重要なのは、クライヴの物語によって、人気が衰えつつある『FF』シリーズを、かつてのように影響力あるゲームに復活させられるかどうか、という点なのかもしれない。

(執筆:Brian X. Chen記者)
(C)2023 The New York Times

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