医療崩壊の瀬戸際から脱却したいわき市、反面で長期化する医療支援--東日本大震災、その時自治体は《2》

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 「「とにかく薬がほしい」という患者さんの思いは、痛切だった」と長谷川代表。だからこそ、本部の指示で一時撤退した全国チェーンの調剤薬局の姿勢を、長谷川代表は今も腹立たしく感じているという。

 地震とそれに続く津波で甚大な被害を受けたことで、長期にわたって再開できない医療機関もいまだに少なくない。木田光一・いわき市医師会会長(写真)によれば、「市内に約270ある診療所のうち、210以上が4月初旬までに再開している」。その一方で、「いくら電話をかけてもつながらない医師はいまだにかなりの数にのぼる。全壊を理由に、医師会に退会届を出した診療所もある」(木田会長)。
 
 29ある病院のうち、4つの病院が津波の被害を受けており、いまだに再開できない病院もある。木田会長が経営する診療所にも津波で海水が入り込み、レントゲン装置をはじめとする医療機器が軒並み使い物にならなくなった。診療所が再開したのは4月3日のことだ。

いわき市内の医療機関が孤立を深める中で、医療機能の回復の呼び水の役割を担ったのが、医師会を中心とする医療支援活動だった。大地震発生から2日後の3月13日には、磐城共立病院とともに市内避難所への巡回診療を開始。同日、永田高志・日本医師会救急災害医療対策委員会委員(九州大学病院救命救急センター特任助教、姫野病院勤務)がいわき市内の避難所の視察と現地での診療を行い、16日の日本医師会での記者会見でいわき市の窮状を明らかにした。


■JMAT(日本医師会災害医療チーム)のいわき市医師会館での会合

日本医師会は多くの災害時医療支援チーム(JMAT)をいわき市に派遣する一方、愛知県医師会からは19日に800キログラムの医薬品が三菱重工のヘリコプターによる空輸で届けられた。20~21日の連休にはいわき市医師会館内に応急診療所も設置され、医療機能は回復に転じた。磐城共立病院が通常の診療体制に戻ったのは3月28日だ。

もっとも、正常化が進展する一方で、避難所などへの医療支援は長期化が不可避の情勢だ。避難所生活者の人数は減少をたどっているものの、4月12日時点で依然として3000人以上にのぼる。「その中には、原発から近い楢葉町や広野町の住民もたくさん含まれる。これら住民は自宅に帰ることもできない」(前出の木田会長)。
 
 また、いわき市内では久之浜や永崎など津波被害が大きい地区の住民も多くが避難所での生活を余儀なくされている。一部で仮設住宅の建設も始まったが、避難者の数には到底及ばない。

前出の長谷川・いわき市薬剤師会会長は「被災者の中で、へルペスや帯状疱疹の症状も出始めた。ストレスや疲労の蓄積が原因だろう」と分析する。「医療機関へ通うことの難しい、お年寄りなど「交通弱者」に通院手段を提供することも必要」(長谷川会長)。だが、現在はそこまで到達していない。被害が大きかった地域ほど、電気や水道などライフラインの復旧が遅れている中で、被災者の窮状は深まっている。それとともに医療支援も長期化が不可避な状況だ。
 


■いわき市立総合磐城共立病院

 

■津波で甚大な被害が出た長春館病院


■津波の被害が大きい永崎地区


■津波に遭った住民が避難生活を送る江名中学校


■いわき競輪場内に設けられた「支援物資集配センター」


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(岡田 広行 =東洋経済オンライン)

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