「しれっと」高支持率続けるフィリピン大統領の手腕 マルコス大統領就任1年、無難ながら内紛の兆しも

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運用にともなうリスクに鑑み、当初案にあった中央銀行や政府系年金基金、社会保険機関などによる出資は見送られたものの、父のマルコス元大統領を始め、過去多くの政権幹部が汚職にまみれたこの国で適正な運用が担保されるか、不安の声は尽きない。

「マハルリカ」とは高貴、気高いといった意味で、父マルコス氏が国名をフィリピンから変更しようとしたり、道路や放送局など息のかかった施設に軒並み被せたりした言葉である。今回の法案の提出者には、現大統領の長男のサンドロ・マルコス下院議員や、いとこのマーチン・ロムアルデス下院議長らが名を連ね、いやおうなくマルコス印を想起させる点もきな臭い。

政府債務が過去最大の14兆ペソ(約35兆円)に迫るなか、新ファンドは投資を呼び込む起爆剤となるか、はたまた汚職のネタとなるか。結果が判明するのは数年後になりそうだ。

元大統領の院内クーデター未遂

マルコス氏は大統領選で過去最多の票を獲得し、支持率も高止まりしている。政治コンサルタント会社パブリカス・アジアが2023年6月8日から12にかけて実施した調査では、マルコス氏を信頼すると答えた割合は62%と、3カ月前に比べ2ポイント上昇した。サラ氏は67%と同様だった。いずれも高い水準を維持している。

ところが盤石な体制と見られた政権与党内部の不一致が5月17日、あらわになった。

元大統領で、前政権時には下院議長を務めたアロヨ氏が、下院の筆頭副議長からヒラの副議長に降格されたのだ。その2日後の19日、サラ副大統領が所属政党ラカスCMDの名誉総裁職を辞し、離党すると発表した。

アロヨ氏が下院議長返り咲きをねらって、ロムアルデス議長に対するクーデターを仕掛けたが返り討ちにあい、アロヨ氏に近いサラ氏が、ロムアルデス議長が党首を務めるラカスCMDを離れたという説が一斉に流れた。

アロヨ氏は現政権樹立の立役者だ。マルコス氏が大統領選出馬を宣言する前、世論調査ではサラ氏が一貫して大統領候補の人気トップを走っていた。サラ氏が立てば当選の確率は高いとみられていたが、アロヨ氏の仲介でサラ氏は副大統領選に回り、マルコス氏と「ワンチーム」を組んだ経緯がある。

アロヨ氏はクーデター説を強く否定し、ロムアルデス氏も「下院の秩序は保たれている」というだけで真相はやぶの中だが、はっきりしたのは「ワンチーム」が必ずしも一枚岩ではないということだ。5年後の次期大統領選をめぐり、ロムアルデス議長とサラ副大統領の思惑がぶつかっているとの臆測もある。

前政権の時代からマルコス家とドゥテルテ家は蜜月とされ、支持層も重なるとみられてきた。しかしここにきてドゥテルテ系のメディアやインフルエンサーの一部が大統領の批判を始めている。

ドゥテルテ氏とアロヨ氏は大統領時代、中国と密接な関係を持っていた。マルコス氏がアメリカ寄りに大きく舵を切ったことが、ドゥテルテ家とアロヨ氏との間で亀裂を生んでいると指摘する声もある。

年初早々にも政権内の抗争に関係するとみられる重要な人事の変更があった。

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