「しれっと」高支持率続けるフィリピン大統領の手腕 マルコス大統領就任1年、無難ながら内紛の兆しも

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2023年1月6日、政府報道官室は、大統領がアンドレス・センティノ氏を国軍トップの参謀総長に任命したと発表した。同氏は2022年8月まで同じポストを務めたあと、陸軍士官学校で同期のバルトロメ・バカロ中将にその座を譲っていた。つまりわずか5カ月で国軍トップに返り咲いたわけだ。

ドゥテルテ前政権は任期切れ直前の2022年5月、参謀総長が定年の56歳を迎えても任期を3年間務めることができるとする法を制定した。バカロ氏は最初の適用例として同年9月に定年を迎えた後も参謀総長にとどまっていた。

にもかかわらず、バカロ氏を外した人事を知らされなかったとされるホセ・ファウスティノ国防相代行が1月9日に辞表を提出し、多数の国軍幹部が一斉にこれに続いた。一時とはいえ「クーデターか」とのうわさまで流れた。

大統領府は「ファウスティノ氏は人事を知らされていた」とわざわざ声明を出し、国防次官が「大臣交代の際の幹部の辞表提出は慣例。国軍の士気は高く、職務を遂行している」と火消しに追われた。

続いて2023年1月14日にはクラリタ・カルロス国家安全保障補佐官が退任し、エドアルド・アニョ前内務・自治相が後任に就いた。つまり10日足らずの間に国家安全保障のチームを総取り換えしたのだ。

ちらつくファーストレディーの影

ファウスティノ氏が辞表を出した1月9日、大統領警護班からメディアに1本の奇妙な動画が送られた。

散歩中だというルイーズ(リザ)・マルコス大統領夫人がカメラに向かって「今回の国軍人事に私は関係していない。私の名前を使う人に警告する。あなたを任命しないよう夫に伝える」と一方的に話していた。

ファーストレディーの名前は、5月の「下院クーデター未遂」の際にも登場する。アロヨ氏はクーデター説を否定する声明のなかで、クーデターをリザ氏が祝福するというデマをある女性議員が流し、これにアロヨ氏が乗せられたとの噂を取り上げ、「哀れな噂は大統領夫人に失礼だ」とわざわざ言及した。

安全保障チームの人事にしろ、下院クーデター説にしろ真偽は不明ながら、リザ氏の名前がさまざまな局面で取りざたされていることは間違いない。

私はマルコス大統領就任前の2022年5月、政権運営のカギを握るのは4人の女性と書いた(「復活したマルコス一族によるフィリピンの将来」)。サラ氏、アロヨ氏、大統領の姉のアイミー・マルコス上院議員、それにリザ夫人だ。

ボンボン・サラのチーム結成ではアロヨ氏とアイミー氏のお膳立てが功を奏したとされるが、この1年の政権運営を見ていると、リザ氏の影響力が強くなっている気配がする。

当の大統領は報道陣の取材に対し、安全保障関連の人事について「センティノ氏のほうがバカロ氏より階級が上なので序列に従った」、下院のクーデター未遂には「議会ではよくあること」と答えにならない答えに終始しており、夫人の影を払拭するには至っていない。

父の時代、ファーストレディーを務めたイメルダ夫人(大統領の母)の影響力が政権内外で絶大だっただけに、リザ氏の言動は今後も注目を集めるだろう。

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