ウクライナの反転攻勢は戦勝へとつながるか ゼレンスキー大統領の外交力と日本の役割

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他方で、欧米諸国内では長期化する戦争において、自国経済を犠牲にしてまでウクライナへの支援を継続することへの不満の声が大きくなっていく可能性もある。

また、来年のアメリカ大統領選挙でトランプ前大統領が仮に勝利すれば、それまでのアメリカのウクライナ支援は大きく後退するかもしれない。これらのことからも、ウクライナとしては政治的にも、この反転攻勢によって確実にその戦果を示し、ウクライナの勝利の道程を見せる必要があるのだ。

これまでNATO加盟国の中でも、とりわけロシアの侵略に厳しい批判を示し、ウクライナの防衛努力に同情的なリトアニアがサミットの議長国となることは、ウクライナにとっての大きな好機となるであろう。7月に開催されるNATOサミットは、ウクライナ支援をこれからも継続していく上での、重要な画期となるであろう。

だからこそ、その前にウクライナ政府としても一定の軍事的な成果を示す必要があったのだ。

チャーチルに自らを重ねるゼレンスキー

ゼレンスキー大統領が模範とし、しばしば参考にするのが、第2次世界大戦中のイギリスの首相ウィンストン・チャーチルである。

チャーチルは次のように論じる。「多くの災厄、測りがたい犠牲と苦難が待ち受けているであろう。しかし、終着点についてはもはや疑いはなくなった」。チャーチルは、日本の真珠湾攻撃を経てアメリカが参戦したことで、自らの勝利を確信したという。その上でチャーチルが何よりも重視したのが、政治と軍事を結びつけて戦争指導を行うことであった。

『危機の指導者 チャーチル』の著者で、外交官の冨田浩司駐米大使は、同書の中で、次のように記す。「英国の国力の限界が顕在化する中で、軍事力を補完したのが外交力であり、その最も強力な武器がチャーチルであった。彼自身も自らの役割を熟知し、これを最大限利用しようとした」。

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イギリス一国の軍事力のみで、巨大なナチス・ドイツに対して勝利を収めることは困難であった。むしろ、その外交力を用いて、より幅広い国際的な連携を確立することが、チャーチルにとって勝利の鍵となるのである。

確かにチャーチルとゼレンスキーでは、政治家としてのその歩んできた道のりが異なる。だが、軍事力で劣るなかで、外交でその国力を補完し、自らを「その最も強力な武器」として世界を飛び回るゼレンスキー大統領は、その国民を鼓舞する姿、そして国際世論を味方に付ける姿において、チャーチルと重なる。

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