1974年の『言い寄る』から1976年の『私的生活』、1982年の『苺をつぶしながら』の3作を通して主人公・乃里子の31歳から35歳までを描いた「乃里子三部作」では、恋愛・結婚・離婚を経て、本当の意味での自立を果たす女性を描き、読者の共感を呼んだ。「乃里子三部作」の3作目『苺をつぶしながら』は、このような3行で始まる。
「苺をつぶしながら、私、考えてる。こんなに幸福でいいのかなあ、って。一人ぐらしなんて、人間の幸福の極致じゃないのか?」
女性が家庭に埋没することなく、広い視野をもって楽しく生きることを提唱し続けた。女性は結婚して、出産して、夫と家を支えるのが当たり前だった昭和の時代に、結婚したものの自分の意思で離婚し、1人に戻った状態を「女性の幸福」だと言い切った作品は革新的だった。
「どうしても女の人は、なかなかやりたいことをやれない場合が多いから。書いているうちにだんだんフェミニストになっていくのね。私、はじめはそんな気はありませんでした。だんだん小説書いてて、20年経ったらこうなっちゃった」
2006年には朝ドラのモデルに
また、田辺は「当代随一の古典の読み手」とされ、『源氏物語』をはじめとする古典の翻訳も旺盛に行うほか、エッセイなどでも数々の古典文学を紹介した。
「古い日本の文学の中でも、われわれが民族遺産と思っている古典なんかに、すごく面白いのがあるのに、そちらはあんまり伝えられなくて。学校で私たちが習う古典の時間も大変真面目な、襟を正してという、そういうことが多いですね。すごく面白いものはやっぱり紹介したいなと思うし」
江戸時代の俳人・小林一茶の生涯を追った『ひねくれ一茶』で1993年に吉川英治文学賞を受賞。70歳を過ぎてからは、これまで正当に評価されてこなかった文学者たちの評伝に力を注いだ。
「亡くなった方の一生というのを俯瞰できるのは、ある程度の歳を取ってからだと思うんです」
田辺の半生は連続テレビ小説『芋たこなんきん』として2006年にドラマ化された。田辺をモデルにした花岡町子は、「女だから」と言われることを何より嫌う主人公だった。
大阪を愛し、大阪弁を愛し、古典文学を愛し、女性の生き方を書き続けた田辺聖子。喜びも悲しみも上質なユーモアで包み、多くの読者に愛された。2019年に逝去。91年の生涯だった。
●田辺聖子の至言
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