エンジン外し電動化、西鉄「改造EVバス」の将来性 台湾メーカーの技術指導でグループ会社が製作

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西鉄は2023年度、福岡地区で16台と北九州で4台、計20台のレトロフィット電気バスを導入する計画だ。まだ具体的な予定はないが、今後はグループ以外のバス会社への拡販も検討するという。新車の電気バスに比べて低コストで導入できるレトロフィット電気バスは業界の注目を集めているといい、山口氏は「全国各地のバス会社が視察に来ている」と話す。

だが、課題はまだ多い。1つは、現状の航続距離では運行路線がある程度制限される点だ。今回、片江自動車営業所に投入された2台が主に走る「113」番の路線は片道11kmで、4往復すると1日約90km。1回の充電で約140km走行可能なものの、満充電には6~7時間かかる。西鉄バスには1日に150km以上走る路線もあるため、「運用上はディーゼルでないと難しい路線はまだまだある」(山口氏)のが実情だ。

レトロフィット電気バスの充電器
営業所内に設置した充電器。2台同時に充電できる(記者撮影)

また、電力費の高騰も影を落とす。当初の想定ではディーゼルのバスより3割程度動力費を削減できる見通しだったが、昨今のエネルギー価格上昇では軽油代よりも電力費の上昇が激しく、現状では「動力費で見ると(ディーゼルのバスと)ほぼ同じくらい」だという。

低コスト電気バスの選択肢になる?

車両自体のコストダウンも、今後の拡販に向けて重要な課題だ。「通常、新車のディーゼルバスは2500万円ほどで約25年使える。レトロフィット電気バスは約1800万円だが、改造後の使用期間を10年程度と考えるとまだ割高感がある。そこをどう下げていけるかが重要」と山口氏は指摘する。

改造を担う西鉄車体技術の登本氏は、「習熟度が上がれば工期が削減でき、かなりコストを下げられるのではないかと考えている」と話す。ただ、今回の2台は西鉄グループのメーカーが製造したバスだったため知見やデータなどの蓄積があり、「比較的改造しやすかった」(登本氏)面がある。規模拡大のためには、ほかのバスメーカーの車両に合わせた研究開発も必要だ。

さまざまな課題はあるものの、従来のバスを改造するという独自の方法で電動化を進めようとしている西鉄。コロナ禍による乗客減や少子高齢化など厳しい状況の中、「環境対応」も求められるバス業界において、レトロフィット電気バスは1つの選択肢として成長していく可能性があるだろう。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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