エンジン外し電動化、西鉄「改造EVバス」の将来性 台湾メーカーの技術指導でグループ会社が製作

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今回の2台のバスは、台湾の大手電気バスメーカーRACエレクトリック・ビークル社の技術指導を受け、西鉄グループの西鉄車体技術(佐賀県)が製作した。2022年から北九州市で運行しているレトロフィット電気バスもRAC社の技術だが、こちらは台湾に運んで改造したため、自社グループで手がけるのは初。「国産車両という位置づけ」(西鉄自動車事業本部・山口哲生技術部長)だ。

RAC社によると、同社は2005年に創業し、2011年から電気バスを製造。充電器やシステムなどを一括提供できる台湾唯一の会社という。西鉄は「RAC社に出資している住友商事を通じて紹介を受けた」(山口氏)といい、今回は同社の技術者が約3カ月間九州に滞在して改造を指導した。

ベースとなったのは、2010年式の「RA274ワンステップ」と呼ばれるタイプの車両。かつて西鉄グループに存在したメーカー「西日本車体工業」がボディを製造したバスだ。西鉄車体技術の登本隆司設計課長によると、改造にあたってはディーゼルエンジンを取り外し、燃料関係や排気系などの機器類を撤去して駆動用のモーターを搭載。合わせてトランスミッション(変速機)はマニュアルからAMT(自動変速)に交換した。これまでエンジンの回転力で動かしていたエアコンのコンプレッサーやパワーステアリングのポンプなどは、新たに専用のモーターを設置している。

レトロフィット電気バスのバッテリー
エンジンルームだった場所にはバッテリーを搭載している(記者撮影)

モーターはエンジンと比べて小さいため、スペースの空いたエンジンルームにはリチウムイオンバッテリーパックを4つ搭載。車内に設置した6つと合わせて計10パックあり、容量は235kWh。1回の充電で140km程度走れるという。

改造費は1台約1800万円

車体の外装はほぼそのまま使用し、車内もバッテリー搭載によって5人分のスペースが減った程度。バッテリーに電気を供給する充電口も、ディーゼル車時代に排ガスを浄化する尿素水(アドブルー)の供給口に使っていた場所を利用している。「なるべくいじらず、使えるものは使うというのがコンセプト」(登本氏)だ。

レトロフィット電気バスの充電口
充電口も改造前からあった部分を加工して設置した(記者撮影)

電気バスの導入にあたって、新車ではなく改造という手法を採ったのは、コスト面での優位性だ。「国は2030年までに運輸部門でCO2を35%削減するという目標を掲げており、われわれとしても取り組まなくてはいけない。レトロフィット電気バスはもっとも運用しやすく価格的にも安くできる」と山口氏は話す。コロナ禍の影響で多額の投資が難しかったことも理由だ。

改造費用は1台当たり約2700万円で、国土交通省の補助金により実質の負担額は約1800万円。海外メーカー製の新車の大型電気バスは4000万円程度だ。登本氏は、「海外製の低価格電気バスも出てきているが、ワンマン運行用の装備などを取り付けると費用が増す。その点、レトロフィット電気バスはもともと付いている機器を利用でき、事業者にとっては使い勝手がいい」とメリットを説明する。

充電設備の設置費用は約800万円で、こちらも国の補助金により実質約380万円で導入した。

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