「松本人志」批判されても"圧倒的支持"3つの背景 ナイツ塙「松本さんはウォルト・ディズニーだ」

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番組が始まって間もなくの頃、筆者は芸人でもない一般人が『すべらない話』を想起させる語り口で笑いをとる光景を何度も見た。これは初期の『ガキ使』のフリートークでも同じ現象が起き、ダウンタウンの2人が口にする「ボケ」「ツッコミ」「イタイ」「ヘタレ」「さぶい」といった言葉が一気に若者の間で使われるようになったのを思い出す。

バラエティーで違和感を覚えたり意外なエピソードを聞いたりした瞬間、「えぇ~!?」と大げさにリアクションして笑わせるのも、松本が最初だったと記憶する。つまり、今の若手が当たり前に使っている語り口や立ち回り方は、松本以降に染みついたものがあまりに多いのだ。

もちろんダウンタウンと同世代、またはそれ以降の視聴者にもこれが浸透している。若者から60歳前後の幅広い層が“松本流の笑いのイロハ”を共有していると考えれば、松本ブランドが長く支持されるのは必然と言えるだろう。

お笑いをアーティスティックな水準まで押し上げた点も見逃せない。松本は、2つの意味合いでネタに価値をもたらした。

コントが若手に大きな影響を与える

1つは、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)のコントで強烈な世界観を放ち、若手のネタやライブシーンに新風を巻き起こしたことだ。

遊園地のアトラクションのようにゴンドラに乗ってサラリーマンの世界を体験する「サラリーマン・ツアーズ」、ルール説明なしで架空の競技が展開される「実業団選手権大会」、胴体だけトカゲの中年男性が人間社会に溶け込もうと四苦八苦する「トカゲのおっさん」といったコントは、およそゴールデン帯の番組とは思えないシュールなものだった。

東京を拠点に活動する若手の一部は、こうしたコントを分析して新たな手法でネタを作り始めた。バナナマン、東京03の単独ライブを長らくサポートする放送作家・オークラ氏は、芸人時代にこれを実践した1人だ。

バカリズム、ラーメンズ(2020年にコンビ活動終了)など同時代のコント師も、意識的もしくは感覚的に、同じシステムのコントを披露してライブシーンを沸かせた。

一方の大阪では、若者に人気があるコントにシフトすべく、1997年に心斎橋筋2丁目劇場(1999年閉館)で「漫才禁止令」が出ている。『ガキ使』のフリートークの影響もあるのか、しっかりとネタを作る漫才師が少なくなっていたようだ。また関西でもコントが支持されたのは、シュールなコントで知られる千原兄弟らの影響が大きいだろう。

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