有名音楽家にみる「子供が自発的に練習する瞬間」 チェリスト佐藤晴真氏が語る幼少時代

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通っていたのは、有名なチェリストを何人も輩出した林良一先生の教室です。

林先生はビシバシ教育するというよりは、従来と違う教育法を考え、それを実践してくれる。レッスンでは、昔先生が習っていた人、つまり「先生の先生」の逸話を教えてくださったり、音楽にまつわる面白い話をしてくださったりして、楽器を弾く以外でも飽きませんでした。

──​​子どもがチェロを習うとなると、使う楽器も大人用とは違いますよね?

はい。大人が使うよりかなり小さな楽器も作られていて、10分の1のサイズからあります。それを、成長に合わせてだんだん大きいものに変えていく。

佐藤晴真氏
さとう・はるま/1998年、名古屋市生まれ。これまでに林良一、山崎伸子、中木健二の各氏に師事。2019年のミュンヘン国際音楽コンクール・チェロ部門での優勝をはじめ多数の受賞歴を誇る。現在はベルリン芸術大学留学中。イェンス=ペーター・マインツ氏に師事している。2023年11月に都内でチェロ・リサイタルを開く(撮影:今井康一)

楽器は高価なので頻繁に買い替えるとなると大変、という印象を持たれるかもしれません。

ですが毎回、大金が必要かというと、実はそうでもない。親の負担を減らすための工夫もあります。

僕が小学1年生、6歳の頃から中学校卒業まで習っていた地元、名古屋の教室には、いろんな年頃、いろんな体格の生徒がいた。

皆、成長していくので、教室の生徒間で楽器の譲り合いが行われていました。自分が大きいサイズの楽器に変えるときには、これまでの楽器を自分が譲ってもらったときと同じ金額で求めている人に渡す。

そんなシステムができあがっていたので、頻繁に大金を払って楽器を買うことにはならなかったんです。

──​​チェロ人口がある程度多くないとそういう仕組みが回らない気もしますが、チェリストの卵が大勢いる地域だったのでしょうか。

僕は名古屋で育ったのですが、実はチェロも含め弦楽器に関しては名古屋出身の演奏家が多いんです。だから近場でうまい具合に楽器の譲り合いが成立していた。

名古屋に弦楽器奏者が多い理由としては、「スズキ・メソード」と呼ばれる音楽教育の方法が名古屋発祥らしく、それで名古屋の弦楽器人口が多いのではないかと言われています。
(注:スズキ・メソード創始者の鈴木鎮一氏は名古屋市出身、同教育を実践する教室は現在全国に1350あるという)

もともとは音楽や楽器に興味がなかった

──​​そもそもの質問になりますが、佐藤さんがチェロを始めたきっかけは。

僕が4歳半の時、兄の通うバイオリン教室の発表会に家族で行きました。そのときゲストとして来場していたチェリストの中木健二先生の演奏を聴いたことが、大きなきっかけになりました。中木先生も僕が通うことになった林先生の教室の出身です。

中木先生のチェロを聴いて「自分もこの楽器をやりたいな」と思ったんです。これが僕にとって、クラシック音楽のファーストインプレッションです。それまでは音楽や楽器に興味がなかったんですよ。

奏者の中木先生への憧れに加えて、チェロという楽器の持つ、華やかさだけではない部分、違う言葉でいうと、ある意味での地味さに惹かれたのかなと。人を包み込むような温かい音が、子どもながらに言葉では表せないような感覚的な次元で魅力的でした。

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