さて、問題はここにとどまらない。
PCがあまりにも売れすぎたために、インテルはスマホ時代への対応に後れを取った。その結果、半導体の製造能力において、はっきり劣後するようになる。おごれる者は久しからず、とは日本企業に限らず、この世界における一種の「定番」なのである。
この間、アメリカの政策当時者、とくに軍関係者が危機感を深め、現在の対中強硬姿勢につながっていく。確かに半導体の設計能力(ファブレス)においては、エヌビディアも含めたアメリカの企業が今も圧倒的な力を有している。
相手の急所を押さえようとするバイデン政権
ところが実際の製造段階になると、ファウンドリーと呼ばれる台湾企業の独壇場となる。実際に「台湾有事」みたいなことが起きてしまえば、いきなり最先端半導体が手に入らなくなるおそれがある。そのときに、世界経済が大混乱に陥るのは必定である。
そこでアメリカ連邦議会は、昨年8月に「CHIPS法」を超党派で成立させて、国内での半導体製造に本腰を入れ始めた。さらに10月には同国の商務省が、対中半導体輸出規制の方針を打ち出す。台湾や韓国の半導体メーカーに対米投資を促すとともに、補助金を受け取った企業は中国での活動に制限を受ける。いわば「毒まんじゅう」である。
バイデン政権の対中姿勢は、“Small Yard, High Fence”(小さな庭に高い壁を建てる)と言われている。つまり、米中のデカップリングを目指すのではなく、業界を絞って障壁を作る。この場合の「小さな庭」が高性能半導体である。
先のG7広島サミットの共同文書においても、「対中政策はデカップリングではなくデリスキング」という文言が盛り込まれた。決して対中融和策なのではない。あくまでも「頂門の一針」を目指すということだ。
あらためて思うのだが、「ムーアの法則」がかくも長く続いてきたのは、半導体産業に世界でも最高水準のヒト、モノ、カネ、技術が投入され続けてきたからであろう。半導体は、つくづくグローバリズムの申し子なのである。
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