新日鉄住金、出口なき南米拠点の主導権争い 合弁事業をめぐる対立が世界戦略の足かせに

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テルニウムは同年10月、一般株主の代表として取締役を送り込んでいた、ブラジル銀行年金基金から普通株式を取得。同基金出身の取締役は後ろ盾を失い、辞任した。この時点で、9月の取締役会で執行役員の解任に賛成票を投じた側が少数派となった。

今回の臨時株主総会は新議長の選出だけではなく、この辞任で生じた取締役の欠員を埋める目的もあった。新日鉄住金は「テルニウムには新たに取得した普通株式を使って意中の人物を取締役として送り込もうとする動きがあった」と言う。

しかし最終的に、後任の取締役にはテルニウムの意中とされた人物でなく、双方とは関係のない投資ファンドの推薦するリリオ・パリソット氏が選出された。

長きにわたる対立のシコリ

新日鉄住金の進藤社長

テルニウムのノベヒルCEOは「現在のこじれた状況を過去のものとできるよう、最大限の努力をしていく」と対立解消に意欲を見せたものの、臨時株主総会の結果については「協定内株主全員の賛同を得ていない人物が議長に就任するのは、ウジミナス史上初めて。極めて不満だ」と反発している。

新日鉄住金の進藤孝生社長も、「テルニウムとの対話を続け、早く解決に達したい」とする一方、「コンプライアンス違反があった」との姿勢を崩していない。

両首脳とも、和解の必要性を認識しながら、長きにわたる対立が生んだシコリを解消できていない。

とはいえ、ウジミナスは厳しい環境下にある。ブラジル国内の景気が悪化する中、中国メーカーの過剰生産のあおりで鋼材価格は世界的に低迷している。2014年度のウジミナスの純利益は約50億円と3期ぶりに黒字化を果たしたものの、600億円を超えていた5年前と比べれば低水準。新日鉄住金にしてみれば、対立を引きずっている余裕はないはずだが、その着地点はまだ見えていない。

「週刊東洋経済」2015年4月25日号<20日発売>「核心リポート02」を転載)

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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