Netflixで「相撲」タブーに挑むただならぬ"覚悟" プロが集まる作品づくりに「ブレーキ役」は不要

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最後に、『サンクチュアリ -聖域-』と同時期に撮影された、ある意味で対極的な作品である映画『めんたいぴりり~パンジーの花』に込めた監督の思いをうかがった。

「最初に『めんたいぴりり』を撮ったのは10年前のドラマでした。今回、映画としては2作目で、それだけ続くと、変えることの怖さもありました。ですが、いくつか変えたいなと思ったことがあって、自分の中でも時間をかけて考えました。

『めんたいぴりり』は、ふくやさんの物語を真ん中に置きながら、戦中、戦後すぐの博多の街を描いた話で、戦後の復興と、それを光とするなら、その光によって生まれる影の部分もしっかり掘り返して見せたいという、ある種の使命感に駆られながら作品をつくってきました。その部分は、やはり辛く悲しいんですよね。ところが今作を考えている時にコロナが流行し、たくさんの人々が大きな打撃を受けてるのを目の当たりにし、そんな人々に対してあえて戦後の辛くて悲しいものを突き付けるのをやめようと思いました。

そして、このタイミングで現代劇に変えました。昭和の香りは色濃く残っていますが、今もある古い商店街の設定で、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』に通ずる世界観をつくりました。コメディとしてはシリーズ最高の出来栄えです。

できた作品を自分で見て思うのは、『サンクチュアリ』の大きくて、太くて、ゴリっとした世界ではなく、いい意味で肩の力が抜けた、本当にみんなの周りにある身近な幸せがつくれたと思っています」

『博多の寅さん』をつくる

「『めんたいぴりり』の体裁はおだやかな人情喜劇なんですが、実は、僕はパンクな気持ちでつくっています。お金で勝ち負けを決められがちな時代に、いやいやもっと大切なものがあるでしょ、ということを福岡という田舎から発信したいと思いました。博多だからこそ『博多の寅さん』をつくろう、というノリでこの企画は続いているように思います」

(画像:映画『めんたいぴりり~パンジーの花』6月9日(金)より全国拡大公開)

日本から世界へ羽ばたいている『サンクチュアリ -聖域-』、九州での先行公開を経て全国で公開された映画『めんたいぴりり~パンジーの花』、江口監督による2つの力作を、ぜひ味わってみていただきたい。

川下 和彦 クリエイティブディレクター/習慣化エバンジェリスト

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かわした かずひこ / Kazuhiko Kawasita

2000年、慶應義塾大学大学院修士課程終了後、総合広告会社に入社。マーケティング、PR、広告制作など、多岐にわたるクリエイティブ業務を経験。2017年春より、新しい事業を創造し、成長させることを標榜するスタートアップ・スタジオに兼務出向。広告クリエイティブに留まらず、イノベーション創出に取り組んでいる。著書に『コネ持ち父さん コネなし父さん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ざんねんな努力』(アスコム)などがある。(撮影:原貴彦)

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