タブーに踏み込むというのは、裏を返せば、まだ誰もやっていないことに挑戦することだ。そのために、江口監督は入念な準備を進めた。
「売れっこないと言われていることに取り組むとき、代わりに何をやるかといえば、とてつもなく面白い中身をつくること。大相撲を扱うからには、そのタブーに切り込んでみようと考えました。出演者たちをオーディションで集めて、時間とお金を使って、肉体をつくっていこう。絶対これだけはしっかりやるべきだと言っていたのは、トレーナーをきちんと入れて安全に増量をすること。
そんな中、元力士たちも集まってくれました。例えば、『猿谷(えんや)』という役に就いたのは、元九重部屋の力士。彼のように一度は相撲の世界に身を置いたけれど、故障や病気などで相撲をやめた男たち。もう1つは、まだ売れてないけれども、これから売れていきたい男たち。そういう役者たちを増量し、ゼロから稽古をつけ、文字通り『入門』してもらったわけです。
ここまでの時間とお金をかけて力士をつくるのは、Netflixでなければできなかったと思いますし、集まった人たちがすごい作品を必ずつくって、自分の人生を変えたいと思っている『覚悟の塊』だったのが、一番の勝因じゃないかと思います」
『サンクチュアリ』のキャストとスタッフは、並々ならぬ覚悟を持って常識破りの映像づくりに挑んだ。しかし、それだけでは成功していなかったと江口監督は言う。
プロデューサーの存在が重要
江口監督が日本の映像コンテンツを世界に売っていく上で不可欠だと考えるのは、それができるプロデューサーの存在だ。
「日本の作品を世界に売る方法には、大きく2つあると思います。1つは、国際的に有名な映画祭に出品し、賞をとるという方法。もう1つは、アニメにする方法。アニメは海外で評価が高い。ところが、海外で通用する日本の実写映画やドラマは、ほとんどつくれていないように思います。それは、日本に実写をしっかり売っていく道筋をつくれるプロデューサーがあまりいないのも一因だと思っています。
Netflixに坂本和隆さんというプロデューサーがいて、最初に坂本さんと、脚本家の金沢知樹くん、僕、そして坂本さんを紹介してくれた人物がいて、『何かやりましょう』と言って4人でアイデアを出し始めました。その場で『相撲をやる』とほぼ決まったと記憶してます。坂本さんじゃなかったらこうはなっていなかったんじゃないかなあ」
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