Netflixで「相撲」タブーに挑むただならぬ"覚悟" プロが集まる作品づくりに「ブレーキ役」は不要

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また、監督はどのようなメンバーとプロジェクトをスタートするかも、作品づくりに大きな影響を及ぼすと言う。『サンクチュアリ』では、少数精鋭、最小単位のチームで企画が進められた。

「企画段階で、ノイズを入れなかったのもよかったと思います。振り返れば、この4人の中にブレーキをかける人がいませんでした。プロジェクトを進めるとき、ブレーキをかけたがる人がいますが、僕は本当のプロの集まりに、その役割はいらないと思っています。

F1に例えると、プロはいかにそのカーブをギリギリのハイスピードで曲がるかということにすべてをかけて、練習し、研究し、開発し、メンタルを整えるわけです。その努力の結果、ブレーキを踏むタイミングをギリギリまで見極め、誰よりも速く、かつ安全にコーナーを走り抜けるのがプロなわけです。全員がそんなプロの集まりであれば、危険だからとブレーキを踏む係は必要なくて、みんなでぐいぐいエンジン回していったほうが面白い作品になると思っています」

その道のプロたちが集まって、ブレーキを踏まずに最高スピードを出したとき、その映像が面白くならないはずはない。ホンモノたちが突き抜けることで、『サンクチュアリ』は最高に尖った作品へと進化していった。

自分の中の「お化け」に向き合う

尖った作品は、人の心に深く突き刺さる。江口監督は人間の心の奥深くを突き刺すために、自身が取り組んできたことについてこう語る。

「僕は人の観察もしますが、自分の内面と向き合うことも大切にしています。ほとんどの表現は、突き詰めると自分の中にあることであり、同時に誰の中にでもあることだと思います。『これって自分っぽくて恥ずかしいな』と思う部分であるほど、ほかの人にとってもそこを描かれると、自分のことのようにドキドキするのではないかと思います。

よく『お化け』って、自分の中にいると言いますよね。実は、自分の中にあるものが、一番怖いのかもしれない。それが一番見たくない。人にも見せたくない。でも、怖いもの見たさでたまに自分の中がどうなっているのか、蓋を開けて見たいという感覚があるように思います。

とは言え、『サンクチュアリ』は『ガチ星』(2017年公開の江口作品、戦力外通告を受けた元プロ野球選手が競輪選手を目指す映画)のときと比べると、人の心の奥底の『お化け』を見せつつも、最後には爽快感もあり、よりエンタメに昇華することができたのではないかと思っています」

(画像:Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」5月4日(木)より独占配信)

『サンクチュアリ』は全8話という長尺ドラマにできた分、さまざまなエピソードや要素を盛り込み、観る人にこれは自分のことだと思える部分を張り巡らせ、江口監督は多くの人の心をつかんでいった。

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