スズキ、上り調子でも「減益計画」を打ち出す真意 足元の利益よりも成長投資を急ぐ事情とは

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2023年度は営業利益が前期比205億円減(5.9%減)となる3300億円を見込んでいるが、この計画には会社の意思がうかがえる。

まず、為替による350億円の減益要因を見込む。歴史的な円安だった2022年度に対し、2023年度は保守的な想定レートを取っている。他方で、半導体不足の緩和によって販売台数は318.6万台と6.2%増、新型SUVなどの増販効果で車種構成差、いわゆるミックスの良化も見込む。これらによる増益要因は1115億円としており、為替影響を補って余りある。原材料高による影響は、原価低減の努力で打ち返す想定だ。

それでも減益計画を出しているのは、成長投資を大きく積むため。研究開発費は前期比244億円増の2300億円、設備投資増加に伴う減価償却費は同127億円増の1900億円を想定するほか、これ以外に固定費などで同800億円増を見込む。

これらのコストのメインは、インドを中心に今後を見据えた備えだ。鈴木社長は「技術開発や営業戦略を加速しなければいけない。充電設備の設置も加速しなければいけない」と強調する。

スズキは今年1月26日に発表した「2030年度に向けた成長戦略」の中で、2030年度までに研究開発費に2兆円、設備投資に2.5兆円、計4.5兆円の投資を進める計画を発表した。この中で、電動化関連には2兆円を使い、うち5000億円を電池関連に充てるという。研究開発費は年平均では2500億円になるため、来年度以降はさらに増やす計画だ。

スズキが償却費とは別の枠で切り出して800億円増えるとする固定費は、上述の充電設備の拡大や電動化の推進、事業拡大に必要な土地取得にかかる費用、人員増の費用などが中心のようだ。

短期的な増益より、将来への投資を優先

鈴木社長はアナリスト向け説明会で、「固定費などの800億円増は金額としては大きいが、社内予算ではさらに大きい額を見積もっている。だからこそ、使い切れると思っているし、むしろしっかりとやり切れるよう工夫し取り組んでいきたい」とも説明している。

スズキはもともと、保守的な業績計画を出す傾向があり、世界販売台数が見込みより上振れることも十分にありそうだ。アナリストの平均予想は2023年度も営業増益の見通しになっている。

もっとも、スズキは短期的な増益をさほど重視していないと思われる。たとえ目先の利益を削っても、投資を順調に進めることに集中しているようだ。

スズキの足元のPBR(株価純資産倍率)は1倍強で、国内の乗用車メーカーでは唯一、1倍以上をマークする。成長が期待されるインドでトップシェアであることが株式市場のプラス評価につながっていることは間違いない。

より重要なのは、10年や20年先までその優位性を保っていくことだ。スズキの減益計画は、現在を将来への岐路とみているゆえなのかもしれない。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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