ヤマハ発動機がEV向けに「音」を売り込む勝算 "エンジン音"は電動化時代も必要とされるのか
電気自動車(EV)でエンジンがなくなれば、「エンジン音」もなくなる。EVの車内は静かで、〝走るリビング空間〟とも表現される。だが、無音になることは、いいことばかりではない。音は、ドライバーが「走り」を感じるための大切な要素でもあるからだ。
そこに「あえて人工的に音をつくって付ける」需要を見いだすのが、2輪大手のヤマハ発動機だ。母体企業である音楽メーカーのヤマハとも協業し、EVをターゲットとした音を発する電子デバイスを開発、車種ごとの音のチューニングも手掛けることで自動車メーカーに売り込みを図っている。
ヤマハ発動機が、電子デバイスを使った疑似サウンドの開発を開始したのは2015年にさかのぼる。きっかけはEVシフトの加速……ではなく、自動車への騒音規制の強化だった。
高級車向けにエンジンで実績
そもそもヤマハ発動機は2輪で培ったエンジン技術をベースに、国内外の自動車メーカーに高性能エンジンを供給してきた。
近年の代表例が、トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」初のスーパーカー『LFA』だ。国内最高峰の車に搭載されたエンジンは、ヤマハ発動機製のV型10気筒4.8L1LR-GUE型。トヨタの自社製エンジンを差し置いて採用されたのは、走行性能もさることながらエンジン音が高く評価されたからだ。
「開発では、出力性能の次に音のプライオリティが高く、多くのパワー、お金、時間をかけた」とLFA向けエンジン開発にかかわったAM開発統括部の藤田秀夫氏は振り返る。自慢のエンジン音はのちに「天使の咆哮」と称されるようになった。
普及モデルのスポーツカー向け4気筒エンジンでも、こだわりの音の作り込みが売りの1つだった。もちろん、その頃の音の作り込みは、エンジン本体や吸気系のチューニングといった物理的な調整によるものだ。
しかし、8年前に風向きが変わる。欧州で、自動車の騒音規制への規制が強まったのだ。実質的に国際基準になり、日本も倣った。この規制は段階的に厳しくなるもので、自動車のエンジンやマフラーから大きな音を出すことが難しくなっていく。
規制の下で、どうやって迫力のあるエンジン音をアピールするか。活路を求めたのは、エンジンそのものの音にこだわるのではなく、電子デバイスによる疑似エンジン音を車室内に響かせることだった。
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