ヤマハ発動機がEV向けに「音」を売り込む勝算 "エンジン音"は電動化時代も必要とされるのか

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その開発を重ねてきた途上の2020年、次なる危機が訪れる。カーボンニュートラル対応の要請が強まり、各自動車メーカーがEVシフトを加速。まだまだ先だと思われてきた、エンジンが消える未来が急速に現実味を帯びてきたのだ。

事業環境変化を受け、ヤマハ発動機はEV向け疑似サウンドの開発を本格化。騒音規制への対応で取り組んできた研究開発の蓄積を生かしつつ、疑似サウンドのみでもギミックに聞こえない音の開発に試行錯誤している。

ヤマハ発動機が、EV向け疑似サウンドにビジネスチャンスがあると考える理由は2つある。

1つ目は、EVでも音が付加価値になりうること。走行性能や制御機能で特徴を出しやすいガソリン車と違い、電池とモーターで動くEVは差別化がしづらいと言われる。そうした中で、音によって高級感や走破性を演出できる可能性がある。

2つ目は、安全性や安心感を高める効果としての音だ。もともとガソリン車から出る音はエンジンの動きと不可分であるため、運転者にとって自動車のスピードや挙動を把握するうえで音は大切な情報でもある。つまり、音のないEVだからこそ、車体の挙動とマッチした音が必要になるというわけだ。

そのため疑似サウンドでは、単に迫力や高級感の演出にとどまらず、自動車の挙動に合致した音の「復元」を重視する。安心安全の音ならば、高級車だけでなく、普及価格帯のEVまでに商機が広がることも期待できる。

海外のライバルは先行

もっとも、ヤマハ発動機はEV向け商戦で出遅れている。競合相手のBOSEやハーマン・インターナショナルといった海外の大手音響メーカーは、ヤマハ発動機よりも数年早く、疑似サウンド用電子デバイスの開発を始めている。音響事業の新たな市場としてEV向けでの商機に、早い段階から目を付けていたからだ。

加えて、BOSEやハーマンはEV向けに疑似サウンド用電子デバイスの開発・供給をメインとし、車種に合わせた疑似サウンドの細かいつくり込みは原則、自動車メーカー側の領域としている。開発工程が少ないことも、事業展開で先行できた要因とみられる。

すでに2社の電子デバイスは、高価格帯のEVやスポーツカータイプのハイブリッド車(HV)などに採用されている。たとえば、ハーマンの電子デバイスを採用したBMWは、映画音楽で著名なハンス・ジマー氏に作曲を依頼。SFの乗り物を思わせる未来的な加速音などをEVに採り入れ話題になった。

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