ヤマハ発動機がEV向けに「音」を売り込む勝算 "エンジン音"は電動化時代も必要とされるのか

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対してヤマハ発動機は、音楽のヤマハと共同開発する電子デバイスに加えて、車種に応じてエンジン音を模した疑似サウンドを細かくつくりこむ。ハードとソフトをセットで提供することで差別化する戦略だ。

ヤマハ発動機の疑似サウンド用電子デバイス。自動車メーカーへの売り込みは苦戦している(記者撮影)

AM開発統括部の田中澄人氏は、「車種やさまざまな走行シーンに合わせ、低周波も含めてかなりきれいにリアルな音をつくれる。デバイスとトータルで音を適合させるのが強みだ」と自信を見せる。しかし、これまでのところ自動車メーカーへの採用実績はないという。

自動車メーカーは、電池コストのかさむEVの原価をいかに抑えるか苦心している。こうした状況から田中氏は、「自動車メーカーは、電子デバイスを別の社に切り替えると、対応する費用がかかる。後発のわれわれは、今は売り込みづらい状況にある」と分析する。そのうえで、「EVの市場が成熟すれば、より付加価値の高いものが求められるようになるのでは」と期待を抱く。

世界での自動車の新車販売台数は年間でおよそ8000万台。EVの普及期になり、疑似サウンドが当たり前につく時代が来れば、数%のシェアを得ればそれなりの数量にはなる。とはいえ、単価はさほど高くないとみられ、どれだけのビジネス規模になるかはまだ見えてこない。

ただ、主力事業の2輪でも、この先電動化は確実に進んでいく。4輪のEV向けに開発する疑似サウンドは自社のバイクにも活用できる。また、EV用モーターの研究開発も進めており、疑似サウンドとセットで展開することでモーターの付加価値を高められる可能性がある。

相乗効果を高める意味でも、EV向け疑似サウンドの商機は是非つかみたいもの。自信がある音のクオリティに磨きをかけることで、顧客獲得での巻き返しを果たせるか。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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