苦戦の化学大手「雨のち晴れ」とはいかぬ理由 厳しい事業環境だからこそ得られた収穫も
第2のルートが在庫評価差だ。
原料の在庫評価において総平均法を採用している場合、原料の上昇局面では期首の割安な在庫が売上原価を押し下げるため、会計上の利益が膨らむことになる。こうした効果で得られる利益は在庫評価益と呼ばれている(主原料価格の下落局面では利益にマイナスに働く)。
2022年度は国産ナフサ価格が急騰した上半期に、この在庫評価益が大きく膨らみ、前述のフォーミュラの期ずれによる利益悪化要因を補った。下半期は、国産ナフサ価格の反落によって在庫評価益が縮小に転じた。本来ならここでフォーミュラの期ずれ解消によるプラス効果があるはずだったが、そのプラスが大きくならなかった。
汎用石化は家電向けや建材向けなど幅広い用途に使われるため、景気の影響を受けやすい。2022年度は、春先の上海ロックダウンの影響が徐々にアジアに波及したことに加え、物価高による世界的な景気減速が重なり、下期に汎用石化の販売数量が落ち込んだ。結果、販売数量の減少によってフォーミュラの期ずれ解消のプラス効果が小さくなってしまった。
各社が手掛ける汎用製品には、MMA、ビスフェノールA、アクリロニトリルといった、原則的にはフォーミュラ制ではない、主に市況で価格が決まるものもある。これらの製品は下期に数量、価格の両面で大苦戦し、業績面での大きな打撃となった。
拡大してきた高付加価値製品も反落
汎用石化事業の収益がナフサ価格や景気に左右されやすいことは以前から分かっていることだ。そのため、化学大手は脱石化を進めるとともに、高付加価値な機能製品の拡大に注力してきた。だが、その機能製品の中核が2022年度には失速してしまった。
半導体や電子材料向けの薬液や光学フィルムなどで、コロナ渦中の2020年度、2021年度でも各社は販売を着実に伸ばしてきた。巣ごもり需要によって、最終製品のノートパソコン、タブレット、スマホなどの販売が好調だったからだ。
ところが、2022年度半ばごろには巣ごもり需要が一巡し、IT機器の販売が減少。そうした最終製品以上に薬液や光学フィルムの販売は落ち込んでしまった。コロナ禍でIT機器のサプライチェーンの不安を受けて、化学品を含む材料も流通在庫が積み増しされていた影響が出ている模様だ。
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