重力に逆らって上昇する日経平均の下落はいつか 世界の投資環境はどんどん悪くなっている

拡大
縮小

この講演はウェブで中継されたが、タイトルは“Hike, Skip, or Pause ?” であった。すなわち、今月13~14日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)では、3つの選択肢、「利上げ(hike)」「利上げの先送り(1回飛ばし、skip)」「利上げの停止(pause)」がある、という論点を指している。

ウォラー理事を含め、高官たちの主張は「経済データや金融環境次第で、利上げをするかもしれないし、しないかもしれないが、skipはあってもpauseはまだだ」という方向だった。つまり、政策金利の終着点はまだ高いという主旨だ。

「史上初の資金量M2の縮小」は何をもたらすのか

アメリカの経済指標が軟化する中で「まだ利上げをする」という方針は、一段と景気を悪化させる。このため本来は、連銀の利上げはドル安要因と解釈するのが素直だ。現時点では「アメリカの金利上昇はドル高要因だ」との過去の解釈を引きずっている為替相場も、いずれドル安円高方向に進むだろう。これは日本株にとって打撃だ。

アメリカの金融政策を見るうえでは、金利だけではなく、資金量も注視すべきだ。5月23日には4月のマネタリーベース(中央銀行が散布した資金量)が公表され、前年同月比で5.0%減と、13カ月連続でのマイナスだ。ただ、すでに連銀は量的引き締めを行っているので、マネタリーベースの減少自体は驚くことではない。

目を引くのは、同国の経済全体に出回っている現金と預金の量を示す、M2の推移だ。マネタリーベースがどうなろうと、経済全体の資金量の増減こそが、景気や市場に影響を与えるからである。

M2は、コロナ禍のあとは、連銀が経済を支えようと量的緩和を行ったことに加え、同国政府も家計への補助金や失業保険給付金の上乗せなどを行ったため、2021年2月には前年同月比26.9%と急増した。これがコロナ禍からの景気の脱却を支え、株価も支持したと推察される。

しかし連銀は量的引き締めに回り、政府による景気支持策も一巡した。そのため、M2の伸びは急低下し、直近まで前年同月比マイナスが5カ月続いている。最新の4月分では同4.6%減で、マイナス幅が拡大する一方だ。グラフを描くと、前年同月比の線が下向きに突き刺さっているように見える。

実は、M2の統計が現在と同じ定義で公表されているのは、1959年1月からで、前年同月比は1960年1月以降について計算できる。こうしてデータがある限りで見ると、M2が前年同月比でマイナスに陥るのは史上初となる。

こうして、かつてない資金量の縮小(ただし異なる定義でさかのぼると、1929年の大恐慌直後などはM2がマイナスになっていたようだ)を受けて、同国経済が拡大し続け、株価が上がり続けるとは、とても想定できない。

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