重力に逆らって上昇する日経平均の下落はいつか 世界の投資環境はどんどん悪くなっている
もう1つの懸念は、アメリカの債務上限問題をめぐるものだ。「えっ、債務上限の時限的な凍結法案が、3日の大統領の署名で成立し、アメリカ国債のデフォルト(債務不履行)の恐れがなくなって、いい話じゃないの?」といぶかる方もおられるだろう。
しかし、連邦政府の債務は以前から上限に達し、国債が発行できない事態が続いていた。それを何とかやり繰りしてきたわけだが、債務上限が凍結されたことで、政府は大手を振って国債を発行することができるようになった。
つまり、これから国債の増発がやってくるわけで、民間から政府へと資金が吸い上げられる。民間部門がそうした国債の買い入れにあまり応じなければ、需給面から国債価格が下落して(金利が上昇して)、やはり景気と株価の悪材料となりうる。
また、今回の債務上限をめぐる交渉で、野党・共和党は、ジョー・バイデン大統領が推し進めたい政策を標的として、歳出削減を求め、政権はいくばくか譲歩した。こうした歳出の抑制は、景気面ではマイナス要因だ。
世界的にも経済は悪化している
「『いや、アメリカの景気が悪化している』などというのは、馬渕さんの妄想だろう。なぜなら、6月2日発表の5月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比で33.9万人も増えたではないか」と反発する読者の方もおられるだろう。
しかし、雇用統計の内容は雇用者数の伸びばかりが強かったととらえている。例えば平均時給の前月比は、4月分が0.5%増から0.4%増に下方修正されたうえ、5月分は0.3%増にとどまり、緩やかな所得環境の伸び悩みが示された。
また、雇用動向の先行指標として、1人当たり労働時間に注目している。景気悪化に伴って仕事量に陰りが出れば、それが残業や休日出勤の減少を通じて労働時間を抑制する。それが続くと、待っているのは雇用削減だ。
この1人当たり週当たり労働時間の前年同月比は、今年1月分がプラスマイナスゼロだったが、その前が10カ月連続のマイナスだった。2月以降も直近の5月分まで4カ月連続で減少しており、マイナス幅が改善する気配も乏しい。
目をほかの主要国に転じると、欧州でもインフレ率の高止まりを受けて金融引き締めが行われており、景気が圧迫されている。欧州最大の経済規模を誇るドイツにおいては、1~3月期の実質経済成長率(前期比ベース)が、5月25日発表の改定値で0.3%減となり、昨年10~12月期(0.5%減)に続いてのマイナスだった。2四半期連続でのGDP減少は、リセッション(景気後退)の目安とされる。
また、ゼロコロナ政策解除後の中国景気の戻りもはかばかしくなく、それが国際商品市況の軟化に表れているとの有力な説も、最近多くささやかれるようになった。「中国の1~4月の不動産開発投資の前年同期比が6.2%減だった」「4月の製造業購買担当者景気指数が50を4カ月ぶりに下回った」などといった懸念の声も聞こえる。
無理やりにでも日本株が上がると強弁したい向きは、中国の景気悪化が中国株から日本株への資金移動を引き起こすと語りたいようだ。しかし、グローバルな株式投資家の立場で考えれば、中国経済が悪化して中国株が下落するなら、中国と地理的に近く、経済的な結びつきも強い日本が、中国の代替投資先の第1候補とは考えないだろう。
こうした世界的な荒波が、砂上の楼閣である日本株の砂を流し去ると懸念している。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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