いつの間にかゲーム屋、それもなんか面白い--南場智子 ディー・エヌ・エー社長[中]
夜中の4時に作業を終え、鬱憤晴らしに車で首都高を走る。2時間仮眠して、朦朧(もうろう)としたまま出社。パソコンを操る下働きは楽勝でも、肝心の戦略論ではまったく発言できない。「タコでもできる作業しかできない」自分は価値が低い──。焦りで萎縮し、消耗しきっていた。
で、「逃亡先」がハーバード・ビジネススクール。……ハーバード・ビジネススクールが逃げ場になる?「何かすごい楽しくて、ホント、生き返った。もうどんなにラクか、マッキンゼーと比べたら」。
会社では深夜仕事を片付けた後、先輩のビジネススクール入学願書の代筆をホイホイ請け負っていた。「自分のも書いちゃうか」。持ち前の回転の速さと要領のよさは、これまでも試験や面接など勝負どころで遺憾なく発揮してきた。そして、ビジネススクールの受験も楽々クリア。
エリート候補生90人が発する緊迫感が充満した教室に、しょっちゅう遅刻してくる南場。授業に出たら出たで舟をこぐ。ビジネススクールには、発言しない学生を教授が指名する“コールドコール”がある。「智子、ケースをオープンしなさい」。
むろん、予習などしていない。すると、周りの席からノートがザワザワ回ってきた。「いちばん読みやすいの選んで棒読み」。そんな調子で授業の評価は最低でも、マッキンゼーで鍛えられたから試験は高得点。2年間の「休暇」を無事終えた。
そして戻った先は、いったん退職したマッキンゼー・ジャパン。嫌だった思い出をすっかり忘れていた。
南場からの「戻りたい」コールに、当時パートナーだった安田隆二(現一橋大学大学院教授)が駆けつけた。採用担当でハーバードの情報にも通じていた安田、「南場ちゃんは絶対欲しかった」。当人が“出来損ない”と自認していた新人時代についても、安田の評価は違った。「素直だし、吸収することに貪欲、そして、媚びない。チームの信頼を得ていた。いつも何かしたいとワクワクしてる。面白がる精神がいい」。