原発放射能汚染で価格暴落する農産物、それでも高い補償の壁

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補償範囲の定義が困難 支払いには相当の時間

まず紛争審査会の指針策定が難航すると予想される。「風評被害」の定義など補償範囲を定義する必要があるが、JCOに比べ被害者の数も範囲もケタ違いだ。文科省によれば、「地震の被害と重複するケースもあるうえ、放射性物質の放出も収まるかどうかわからず、損害の確定すら難しい」(原子力課)。今回は福島第一原発で被曝した作業員や避難者への補償も重なり、風評被害以外の案件も山積み。賠償金支払いには相当時間が必要だとの見方が強い。

賠償金申請の手順も複雑だ。農産物の場合、申請には粗利益を算定する必要があり、出荷伝票や過去の損益計算書など複数書類が必要。JCOの賠償時に茨城県庁で相談窓口の担当をした県職員は、「賠償申請の段になって急に必要書類を準備せよと言われても難しく、大多数の農家が思うような補償が受けられなかった」と振り返る。今回も東電や文科省による賠償に必要な書類の周知はこれからだ。

さらに、国の役割がJCOのときと大きく異なることを、問題視する声もある。JCOの賠償の際には、地方自治体が示談の場に立ち会ったうえで、紛争審査会が和解の仲裁をした。しかし横浜弁護士会の飯田学史弁護士は、「今回は賠償金額が巨額に上るため、国自体が、東電に対し補助金の交付や融資などをする、準・当事者的立場になる可能性が高い。被害者と東電の間に立つことが難しくなるのでは」と問題視。文科省は「中立性は保たれる」(原子力課)と強調するが、第三者的機関をつくるなどの措置が求められる場合もある、と飯田氏は指摘する。

被害者が賠償を得るためのハードルは思いのほか高い。4月5日には汚染水放出で、魚介類からも高濃度の放射性物質が検出され、さらなる補償範囲拡大も想定されよう。賠償について、東電は真摯に被害者と向き合い、政府は公正かつ最大限の措置をとる必要がある。

(麻田真衣 =週刊東洋経済2011年4月16日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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