民自大連立の話がくすぶり続けている。
未曽有の大危機に直面して、「救国体制確立」「挙国一致」「総力結集」「政策総動員」を唱える声はいまも強いが、もし実際に大連立に進めば、どんな事態と展開となるか、じっくり考えてみる必要がある。
民主党側はねじれ解消、政権維持、政局安定、首相続投による大連立なら菅首相には延命というメリット、自民党側は政権参加、予算執行や政策実現への関与、さらに将来の自民党政権復活の展望といった利点がある。政党の思惑だけでなく、予算関連法案や数次の補正予算、被災者対策や復旧・復興関連の法案などもスムーズに成立し、政策総動員も進めやすい。
大危機克服で役割が大きいのは行政で、効率的な施策実現が可能になる。大連立で政治のパワーが大きくなるから、政治主導が確立するという見方もあるが、実際は政官一体体制が進むだろう。実は大連立を一番望んでいるのは霞が関の官僚機構と見られる。
一方、大与党体制となるから、代議制民主主義の機能は事実上、一時停止となる。権力のチェックとバランス、批判や追及を伴った監視、情報公開、幅広い議論といった民主主義の効果は大幅減退となるのは間違いない。緊急非難的な時間限定の大連立なら、仮に一時的に民自二大政党が崩れて政界再編となっても、次期総選挙をにらんで、結局は正常・健全な政党政治は復活するという見解もあるが、始めてみると、民自両党とも与党の旨みにどっぷり使って、だらだらと大連立を続けるという展開もあり得る。
行政と統治の機能を最優先にする大連立は、大危機発生の直後がもっとも必要性が高く、時間の経過とともに民主主義の機能が必要となる場面が広がり始める。
今後、原子力政策や電力・エネルギー問題、被災地再生プラン、日本全体の経済や社会のあり方といった課題に取り組む場合は、国民世論も含めた権力のチェック、監視、政官と関連産業の情報公開、広い視野を持った議論や検討が不可欠となる。
こう考えると、当面の与野党協力による事実上の大連立体制は支持するが、大連立政権はやめたほうがいいという結論になる。
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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