戦後70年談話を「言葉のゲーム」にするな

キャンベラ演説にみる安倍首相の立ち位置

――安倍首相はボルネオのサンダカン、パプア・ニューギニアのココダで戦時中に起こったことについて述べたが、サンダカン、ココダに対するオーストラリア人の気持ちはどういうものか。

サンダカンでは、約1000人のオーストラリア兵が殺傷、餓死、病死、疲労困憊で死んだ。ココダではオーストラリア軍と日本軍が激戦を交え、約600人のオーストラリア兵が死んだ。

注目すべきは、安倍首相はサンダカンという場所の名は口にしたが、“死の行進”という言葉は使わなかった点だ。ココダという地名は、戦時中にオーストラリア兵が、最も苦しんだ場所を象徴している。ココダを記憶する記念碑は、オーストラリア各地に存在する。オーストラリア人の中には、今でも、ココダの荒涼とした地形を再現した跡地を訪れる人たちがいる。

オーストラリアに謝罪はしていない

――安倍首相のコメントをオーストラリア人は謝罪と受け止めたのか。安倍首相の話はどこか受け身的で、過去に酷いことが起きたことを“残念”に思ってはいるが、日本側に責任があることを認めていない。

安倍首相は哀悼の意を表することはしても、謝罪はしていないと多くの論者が指摘している。事実、安倍首相の演説は戦争について述べているが、日本が謝罪すべき事柄としてではなく、むしろオーストラリアと日本が共有する歴史の一部として語っている。

両国の“父や祖父”がともにサンダカンやココダの戦闘を経験したと語り、次いで日本海軍の将校がシドニー港で潜水艦攻撃を試みて戦死したという話を続けている。

安倍首相は戦死者の母親のひとりがオーストラリア政府に招かれてシドニーを訪れ、追悼式典に参加したという話をし、元オーストラリア首相の「日本に対する敵意はなくさなければならない。いつまでも記憶しているより希望を抱くほうが好ましい」という言葉を引用した。安倍首相のメッセージは明快だ。すなわち、「戦時中、われわれすべてが同じように苦しんだ。過去の不和は水に流すべきである」。

――安倍首相は中国や韓国よりも先にオーストラリアと和解する用意があると伝えたいのだろうか。

それについて私は、安倍首相に戦略的な考えがあるととらえている。安倍首相は戦時中に日本軍が犯した過ちについて、直接謝罪したり承認したりするのをできる限り避けたいと願っているようだ。

同時に戦略的に日米軍事同盟を強化し、また、オーストラリアのような国々と軍事的、諜報的連携を深化させようとしている。その2つの目的を組み合わせるために、安倍首相と側近の人たちは慎重に言葉を選び、戦争の記憶をいたずらに刺激して、過去の事柄について直接弁明したり謝罪したりしないですませようとしている。

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