戦後70年談話を「言葉のゲーム」にするな キャンベラ演説にみる安倍首相の立ち位置

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――安倍首相は日本に基本的な変化をもたらす「変革の人」と思うか。

安倍政権は軍事戦略、情報の国家管理、教育指導要領、貿易・エネルギー政策、その他の重要な分野ですでに日本を変えている。

その意味では、安倍首相は「変革の人」である。だが、それらの変革を本当に実現させることができるかどうか。また、安倍首相の政策課題として残されている、憲法改正を含む基本的な変革を、さらに前進させることができるかどうか。その判断を下すのは時期尚早である。

――安倍内閣の支持率は高いが、他方で主要な政策の支持率が低い。これはどういうことか。

日本の世論は、2011年のトリプル災害(地震、津波、原発破損)以来、日本の危機状況が続いていることや、指導者不足などに神経質になっている。多くの日本人は、トリプル災害の後遺症、日本経済の脆弱性の継続、中国の台頭など深刻な不安感にさいなまれている。

そういう状況下で、日本経済再生や国民的誇りの復活など、安倍首相が唱える単純明快な言説が国民には心強い。

アベノミクスがスタートしてから2年半、経済のファンダメンタルスや、普通の日本人の生活状況へのインパクトは、ほとんどないに等しいにもかかわらず、多くの人々は依然として、アベノミクスの将来には望み託している。

歴史修正主義は日本社会を分裂させる

――アベノミクスはしっかり考え抜かれ、かつ現実的な国家戦略として安倍首相の“修正主義”の土台になるものなのか。それとも日本についてのロマンチックな気まぐれに過ぎないのか。

アベノミクスは政治的現実主義ではなく、感情やイデオロギーによって駆り立てられていると思う。より現実的な政治的戦略によって、中国、韓国、その他アジアの隣国の心配は、積極的かつ創造的に対処されるものだ。日本の長期的な経済および安全保障の将来は、近隣諸国との良好な関係に依存している。

修正主義は日本社会そのものを分裂させ、その溝を深める。草の根の大衆レベルで、日本は近隣諸国との和解の道を探り、戦争責任にまつわる諸問題に取り組んできたすばらしい歴史がある。

より現実的な国策は、草の根の大衆運動の成果の上に築かれる。近隣諸国との和解に懸命に働いてきている普通の日本人を疎外したり、周辺に追いやったりしては何も始まらない。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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