「夫が隠す心の内」余命わずかの妻が下した決断 カンヌ受賞のモロッコ映画が描くタブーと文化
2010年代初めに中東地域で起こった「アラブの春」をきっかけに、モロッコでは2011年に憲法が改正され、2011年憲法の前文では「性別、肌の色、信条、文化、社会的または地域的出身、言語、ハンディキャップ、その他あらゆる個人的事情を理由とするすべての差別を禁止し、これに立ち向かう」と記されることとなった。
そうした個人の尊厳を憲法が保障する一方で、同性愛はタブー視されており、刑法489条によって6カ月から最高3年の禁固刑および罰金が科される犯罪とみなされている。
つまり同性愛者は自分を偽り、ひっそりと暮らさなくてはならない。この矛盾した状況に異議を唱える者もいるが、その状況は今でも変わらずにあるという。
余談だが、昨年公開されたアニメーション映画『バズ・ライトイヤー』の中に女性同士のキスシーンが登場するということで、モロッコをはじめとしたイスラム圏などで上映中止に追い込まれたことがあったが、それもそういうことが影響している。
タブーについて語る映画は大きなリスクだった
そんな背景もあり、トゥザニ監督もアメリカのエンタメニュースメディアThe Wrapのインタビューに「こうしたタブーについて語る映画を撮ることは大きなリスクだった。毎日、撮影に行くときは、次の日の撮影があるかわからない状態だった」と答えている。
だがそれでも語るべきこと、表現しなくてはいけないことがあると考えたトゥザニ監督は、この作品が議論のきっかけとなれば、という強い思いで本作に向き合ったという。
そのうえで本作が描き出すのは人間の温かさや人間の純粋さ、良心である。しかし決してそれらを声高に押し出すわけではなく、夫婦の会話や視線など、2人のささやかな日常生活を丹念に描き出すことで、“愛“とは何かを観客に問いかけている。
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