楽天、「3300億円増資」でも続くモバイルの綱渡り 今期黒字化は早々に断念、当面はKDDIの助けも

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今回締結した新たなローミング契約の詳細な条件は明かされていない。ただ、楽天はローミング費用については当初計画に対して「若干の増加」としており、以前より単価は下がった可能性が高い。

楽天としては、当面KDDIの助けを借りることで、基地局の整備スケジュールを見直して資金難の急場をしのぐ狙いだ。新たな契約により、2023年の基地局設備投資額を1000億円減と当初計画から3割減らすほか、今後3年間で3000億円の設備投資削減を見込む。

背に腹は代えられない楽天がすがったように映る今回の契約だが、実はKDDIにとってもメリットは大きい。ある通信業界関係者は「KDDIは2023年度に楽天からのローミング収入が前期比で600億円減少する見込みで、この埋め合わせは容易ではない。KDDIから楽天に話を持ちかけた可能性もある」と推測する。

楽天の自社回線による人口カバー率(通常速度でデータを無制限で使えるエリア)は、2023年4月末時点で98.4%。それが新契約によって一気に99.9%と、大手3キャリア並みに広がることになる。

新契約の下、楽天モバイルは6月1日から新プラン「最強プラン」を投入する。料金は従来の980~2980円(税抜き)のまま、楽天回線もKDDI回線も使い放題にするという。

最強プランでどこまで契約を伸ばせるか

今後の焦点は、新プランを契機として楽天モバイルの契約回線数が伸びるかどうかだ。

月々2980円で良質な通信が全国で使い放題となれば、大手キャリアが展開するプランの中では最安値圏と言える。楽天経済圏のサービス利用が多いユーザーなどが、一定数流入する可能性はあるだろう。

ただ、KDDIのローミングを使えるようになったとはいえ、ローミングがカバーするエリアは都市部など一部にとどまる。契約獲得や解約抑止に当たって障壁となってきた通信品質の問題では、イメージ改善へのハードルは依然として高い。

通信品質という点で、楽天と大手3キャリアとの最大の違いは、障害物を避けてつながりやすい700~900MHz(メガヘルツ)の周波数帯「プラチナバンド」の有無だ。楽天モバイルのみがプラチナバンドを割り当てられていない。

楽天は総務省に対して長らくプラチナバンドの割り当てを求めてきた経緯があり、同社の想定では早ければ今秋にも獲得できる見通しという。ただし、競合する既存キャリアの意向なども加味する必要があり、その行方はまだ流動的だ。

仮に楽天の新プランへのユーザー流出が起きれば、競合各社が何かしらの対抗策を打ってくる可能性もある。増資や投資計画の見直しで一息つく暇もなく、今後も綱渡りの経営は続きそうだ。

高野 馨太 東洋経済 記者

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たかの けいた / Keita Takano

東京都羽村市生まれ。早稲田大学法学部卒。在学中に中国・上海の復旦大学に留学。日本経済新聞社を経て2021年に東洋経済新報社入社。担当業界は通信、ITなど。中国、農業、食品分野に関心。趣味は魚釣りと飲み歩き。

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