非正規31歳男性が憤る「大学図書館の働かせ方」 民間への業務委託が進むことによる「悪影響」

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社会保険の適用範囲は非正規労働者の増加に合わせ、拡大されてきた。パートやアルバイトで働く人たちのセーフティーネット強化が目的で、現在は週の所定労働時間が20時間以上の場合は原則社会保険に加入させなければならない。会社が社会保険料の負担を避けるために無理に労働時間を抑えているのだとすれば、制度改正の趣旨に反するし、何より業務は過密化するわ、社保にも入れないわというスタッフは踏んだり蹴ったりである。

カツヒサさんは契約更新の面談の際、会社に時給アップを求めたことがあるという。しかし、担当者からは「大学からの委託料が安すぎる。(大学と)交渉したいけど、委託先に選ばれなくなるかもというプレッシャーがある。だから賃上げは無理」と受け流された。

図書館で最低賃金水準で働きながら、待遇の改善を求めたカツヒサさん。ただカツヒサさん自身は貧困の当事者ではない。なぜ、先頭に立って声を上げようと思ったのか――(写真:カツヒサさん提供)

発注者である大学の顔色をうかがう受託会社

結局、ピラミッドのトップは大学。その下に発注者である大学の顔色をうかがう受託会社があり、コスト削減のしわ寄せを最も受けるのは現場のスタッフという構図が透けて見える。最低賃金からの脱却もままならないのだ。開館日程や勤務日程も大学側の意向に従うしかないことは想像に難くない。

不満を抱きながら働くよりは辞めたほうがましと考えるのか、大学図書館ではスタッフの入れ替わりが激しかったという。カツヒサさんによると、5年間働く中で自分よりも勤続年数の長いスタッフは1人だけになってしまった。

最底水準の労働条件と辞めていく人材――。カツヒサさんが見た光景は民間委託された図書館の典型的な姿でもある。

私は図書館の民間委託のメリットを全否定するつもりはない。全国チェーンのカフェを併設したり、SNSでの発信を増やしたり、イベントを企画したりといった施策がサービス向上だというなら、一理あるだろう。ただそれらが民間ならではのノウハウだと言われると疑問だが。

一方で民間委託によってスタッフたちの待遇が向上したという話は、私はあまり聞いたことがない。図書館司書を含めた知識や経験が豊富な人材が流出していくケースを見るたび、私は「貧すれば鈍する」という言葉を思い浮かべてしまう。

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