「トイレなぜ使用禁止?」開放できない深刻事情 厚意で貸しているのに…理不尽クレームに絶望

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藤原さんはこう話す。

「せっかく現地まで取材に来たのであれば、寺務所に一言だけ確認してもらえば済んだことかもしれません。ですが、私のSNSへの発信や直接の問い合わせは、特定の出版社を責めたいからではなく、みんなに公共のトイレのあり方を考えるきっかけにしてもらいたいからです」

山を愛する人の気持ちも、ハイキングが好きな人の気持ちも理解している。彼らにとって、鷲林寺のあるエリアにトイレがなければ大変困ってしまうこともわかっている。だからこそ、40年間、嫌な思いをしてもハイカーに開放した。

「ここにあったトイレは絶対に必要なものです。でも、あまりにマナーがひどい。だから、廃止までには悩んだし、廃止してからもきつい気持ちになりました」

寺が公共性の高い施設とはいえ、その「絶対に必要なもの」であるトイレの負担を無償で担うことの是非は問われるべきだろう。

だから、西宮市にも寄贈を持ちかけたし、市ができないなら、県が管理してほしいという気持ちも持っている。

2007年に新しく建て替えられた寺のトイレは、西宮市の「都市景観賞」を受けた。紹介した市の公式サイトには、今でも「参詣者だけでなくハイカーなど一般の人々にも利用できるよう配慮されています」と書かれている。

「市の説明もそもそも間違っているんですよ」と藤原さんは言う。

昨年11月に、トイレの取り壊しを発表した際、「私たちも悩んでいる」と寺にメッセージを寄せたのは、コンビニで働く人たちだった。コンビニもまた、社会インフラとしてトイレの開放を期待され、その管理のあり方が問題になっている。

「コンビニだって公衆トイレ扱いされていて、私は同じ問題だと受け止めています。多くの人に公共性の高いトイレの管理のあり方を考えてほしいです。そして、そもそも、人の物も自分の物も大切に使う道徳心やマナーがあったはずです」

出版社への「トイレ」クレームはバーベキュー場からも

取材に応じた『るるぶ』編集部も、民間施設の「公衆トイレ化」は問題だと認識していないわけではない。

今回のように、トイレ表記をめぐって寺から問い合わせを受けたのは初めてのケースだった。しかし、山に関する図書を扱う別の編集部には、山のふもとにあるバーベキュー場から「トイレの使い方が悪いので、表記しないでほしい」などの問い合わせが昨年ころから届き出したという。

そこで、るるぶでも今後はトイレ情報を紹介する際には注意を払っていく考えだ。

「特にハイキングについて紹介する場合、どこにトイレがあるかが重要なため、できればトイレ情報は掲載したい。市が管理している公衆トイレであれば掲載は続けていく。しかし、ハイカーの質の問題もあり、迷惑をかけるわけにはいかない」(『るるぶ』編集部)。

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