日本は米国の「血も涙もない経営」をまねるな 人気エコノミスト中原圭介氏に聞く【後編】
中原:確かに、アメリカは、インフレ目標政策によってGDPを右肩上がりで伸ばし続けましたが、その中身を子細に見ると、企業収益ばかりが顕著に伸びていて、国民生活がじわじわと傷んできたわけです。
私がいちばん懸念しているのは、今の日本がそういったアメリカの後追いをしているということです。なぜかというと、インフレ目標政策の利益の恩恵にあずかれるのは、多額の株式を持っている富裕層と大企業に勤める人々だけだからです。
とはいっても、富裕層が恩恵の大部分を占めることになり、大企業の従業員が受ける恩恵は富裕層に比べれば「スプーン1杯程度」にしかすぎませんし、大多数の庶民は逆に実質賃金が目減りして、生活が苦しくなっていかざるをえないのです。
三井:格差大国アメリカが辿ってきた道を、今、日本も踏襲しようとしてしまっているということですね?
中原:はい。不幸にも日本は、今のところアメリカの辿ってきた道を、歩み始めてしまっていると思われます。
日銀の緩和マネーは、株高を引き起こして富裕層の資産を増大させる一方で、インフレによって一般国民の購買力を弱めてしまっています。これは、アメリカの事例と同じように、国と中央銀行の政策によって、一般国民から富裕層への所得移転が行われていると言っても過言ではないのです。昨年、家計の貯蓄率がマイナス(統計では初めてのこと)になりましたが、家計の奪われた貯蓄が、そのまま企業の税収増につながっているという言い方もできるでしょう。
企業の利益率向上がはらむ問題とは?
中原:ただし日本の救いは、日銀が無謀な追加緩和をしない限り、2013年以降続いたインフレは止まる可能性が高いということです。原油安の影響により悪性のインフレが止まれば、実質賃金の下落は止まりますし、そうなると残る懸念は、政府の成長戦略における「企業の利益率向上」がはらんでいる問題だけになります。
三井:企業の利益率向上がはらんでいる問題とは、どういったことでしょうか?
中原:その話をする前に、私は「失われた20年」とは欧米の価値観の押し付けであって、日本社会の真相を歪めて伝えてしまっていると思っています。というのも、日本が1997年以降、賃金が上がらずデフレになったのは、日本企業が従業員の賃上げよりも、雇用を守ることを優先してきたからです。
日本企業はこの価値観を重んじて、低成長に陥ろうとも、デフレになろうとも、雇用を守り通してきました。だからこそ、先進国で最も低い失業率をずっと維持することができたわけです。
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