名探偵コナン制作会社「初任給+5万円」実現の覚悟 トムスが挑む「アニメ業界最下層」からの脱却

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ーーいろいろな種類の版権がある中で、なぜ海外への映像販売権なのでしょう。

現在アニメの製作委員会で収益の半分以上を占めるのは、実は海外への映像販売によるものだ。かつて利益を稼いでいたDVDやブルーレイディスクなどのパッケージが売れなくなる一方、グローバルな動画配信プラットフォームの存在感が高まっていることが背景にある。

そこで、自社の海外営業チームを再編成し、(製作委員会を組織する企業に対して)海外への販売窓口を取らせてくれと交渉を始めた。

だが海外窓口が欲しいのは他社も同じで、権利の取り合いになる。とくに(製作委員会を主導する)幹事会社がこれを渡すわけがない。だから、アニメの制作からプロデュースする出資者側に軸足を移し、自らが幹事会社になるしかなかった。

「アンパンマン」「コナン」で安定的に稼げるが・・・

――出資者側に回る機会を窺い始めたのはいつからですか。

もともと当社が著作権者の一員だった『それいけ!アンパンマン』と、劇場版の製作委員会に出資できている『名探偵コナン』の2作品だけ作り続ければ、安定して年10億円強の利益を稼げる。

ただ、さらに利益を伸ばそうとすれば出資する作品を増やす必要がある。私がトムスの社外役員に就任した2008年、同じくセガ出身の岡村秀樹社長とそういう話になった。

もちろん、製作委員会はそう簡単に出資させてくれない。「社長が出資しろと言ってるから」と中途半端に現場が動いたら、何が起こるか。どの製作委員会からも1クール(3カ月の放送期間)モノのアニメの商品化権を渡されてしまう。ただ、1クールモノのグッズ販売(で収益を上げるの)は容易ではない。都合のいい投資元として使われていると感じ、このままではまずい、と危機感を覚えたこともあった。

ーー出資者として優位に立つため、どんな交渉が必要なのでしょう。

例えば東宝が企画した『Dr.STONE』がいい例だ。トムスが制作のみならず欧米への映像販売も担当している。

竹崎 忠(たけざき・ただし)/トムス・エンタテインメント社長。1964年生まれ。1987年関西大学工学部卒業。CSK(現SCSK)を経て、1993年にセガへ入社し、PRやマーケティング、キャラクター・映像ビジネスに従事。2008年から子会社のトムスで社外取締役を務め、2015年に移籍。国内事業本部長などを歴任し、2019年4月より現職(撮影:尾形文繁)

東宝は(原作の版元である)集英社にアニメ化を持ちかける際、かつて『弱虫ペダル』の制作を担当した当社のチームが優秀だったので、本作でもこのチームに託すという前提でプレゼンを通した経緯がある。

そこで、東宝に「東宝さんと同じだけ出資もするので、欧米かアジアの海外窓口をやらせてくれませんか」と相談に踏み切った。

――こうした相談をすることに、社内から反発はなかったのでしょうか。

うちでいう「営業」というのはもともと(製作委員会から制作の)お仕事をいただく機能。こうした相談を出資者側に持ちかけること自体、「これまでお仕事をくださっていた会社さんに対してとても失礼だ」という声は強かった。なるほどこれがアニメ制作会社の感覚か、と。

これがゲーム業界なら、(家庭用ゲーム機を展開する)プラットフォーマーが少しでもいいゲームタイトルを呼び込もうと、開発者にお金を積むのが普通。ピラミッドの頂点にクリエーターがいて、主導権を持っているのがゲーム業界なのだ。

反対に、クリエーターが最下層にいるのが日本のアニメ業界。なぜ、仕事を依頼しているほうが偉そうにしていて、作っているほうは最下層として扱われているのか。

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